第54話

📖






「黎夜!帰ろー!」



「……今日は無理」



「えっ。なんで?」



「弟迎えに行く」



「そのくらい、一緒に行くよ!」



「6時に迎えなんだよ。暗くなるし、先帰れ」



「あ……。そっ、か…。

わかった。

黎夜、帰り気をつけてね」



「………わかってる」







俺の恋人ーーー中森和香奈は、じゃあねー!と手を振って帰っていった。



それには視線だけ向け、手は振り返さなかった。











弟の迎えなんて、嘘だ。


もう限界だった。





知らない女に腕を絡められ、にこにこと話しかけられ、キスをせがまれる。


記憶がなくても、きっと思い出してくれると信じているから。

だからその間、自分が特別だという自信を持っていたい。






そんな理由で、キスやそれ以上をたまに要求される。










そして、家に帰れば重い空気。

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