第42話

「…………だって、私は悪くない」


「は?」







雨の音がする。

笑い声がする。

自分の呼吸の音がする。



自分の鼓動が聞こえる。







「…………私は、悪くない。

私はこの世に産み落とされただけで、私の思う道をまっすぐ歩いてきた」


「……………」


「どんなに犯されても、

どんなに傷つけられても、

どんなに汚されても、

どんなに蔑まれても、

どんなに嘲笑われても、」


「……………」









にっこりと笑みを浮かべた。



私はそうやって生きてきた。




ずっとずっと、そうやって生きてきた。






だって、








「どんなに誰に何をされても、

汚いのは私じゃない。


私にそんなことをする人たちみんなの心が汚いだけだもん」


「…………っ…」



「そんな人たちのこと考えるより、

今日の空とか、

空気とか、

知らなかったこと知れる勉強とか、

今日生きてる時間とか、


そういうものを感じた方がいいじゃない?



私が生きるこれからの長い時間の中で、

関わりもいらない、どうでもいい人間のことなんて、考えるだけ無駄だもの」



「…………妊娠したらどうすんの?」


「さぁ?妊娠させた人が考えるんじゃない?」


「……………」


「まぁ、生理なんて随分前に止まっちゃってるから、妊娠なんてしないと思うけどね」


「止まった?」


「うん。もう2年くらい来てない。

でもいいの。


私は別に、恋愛なんてどうでもいいもの」










太郎の手から、自分の手を抜いた。










「だ〜れも私を愛してくれないから、

私だけは、私をちゃんと大事に愛してあげるんだ〜」











たとえ虚しくとも、

たとえ寂しくても、

たとえ苦しくとも、

たとえ悲しくとも、






私だけは、私に寄り添い続けるのだ。

自分の声を、ちゃんと聞いてあげるのだ。

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