第23話

そのお客は男性のようだった。


男は、こんなに席があいているにもかかわらず、私の隣へ腰を下ろした。


「……今日は?」


「……XYZ」


私もバーテンダーも驚いた。

XYZは普通、帰り際の最後に飲むようなものだから。


だが、バーテンダーはにっこり微笑むと、作り始めた。


不思議な人だ、と思いながら、私は私の時間を楽しむ。



「はいよ」


「……あぁ」


小さく、ありがとうと返事をすると、男は酒を手に取った。

大きくて綺麗な手は意外に華奢で。

なぜか小刻みに少し震えていた。


煽るように一口、口に含むと、両手を固く組み、眉間にしわを寄せ、何かに堪えるように体を震わせた。


バーテンダーは心配そうに男を見ていたが、ふと視線を逸らし、グラス磨きを再開する。



私は、とても、お酒を楽しみに来ているようには見えない男の飲み方と様子を横目に少しだけ見ていた。

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