煙 Ⅲ 【完結】

第158話

〜・〜

狩った鹿はおっさんの家でさばいてくれるらしい。

鹿をおっさんの家まで運んだ後、私は澄人の送りで家に向かっていた。

『……1人でも帰れんだけど』

「だめ。璃久は何するかわからないし。

……さっきだって、誤魔化してたけど絶対木の上で撃ってただろ」

「(……………)」

ジト目で見つめられたので、そろ〜っと視線を逸らした。

ほらやっぱり！と言われつつ、知らないふりをして軽く口笛を吹く。

「あはは！………なんか、璃久っていいね」

「(…？)」

「璃久がここにきた時も思ったんだ。

……笑ってる顔が、…綺麗だなって」

「(……………)」

澄人が立ち止まる。

私も立ち止まった。

ゆっくりと私の方に振り返る澄人の頰は、ほんの少し赤く染まっている。

「でもさ、…璃久って、いつも苦しそうだよな」

「(…………)」

「それ、……なんで？」

「(…………)」

──幸架はいつも、苦しそうに笑う。

こんな時まで、…。

今聞かれてんのは、私のことだ。

幸架のことじゃない。

………なんで、苦しそうに笑うのか…。

なんで、…。

『………さぁ。なんでだろうな』

「言いたく、ない？」

『そういうわけじゃない。

……ただ、わからないだけ』

「わからない？」

『うん。…わからない』

どうして、いつも苦しそうなんだよ。

どこか痛いのか？

体の調子が悪いのか？

それとも、私が何か言っちまったのか？

………どうして、教えてくれないんだよ

………あ、れ…？

「(…………違う)」

「え？…璃久、なんて言ったの？」

違かった。

私が、

幸架に、

何も訊かなかったんだ。