第151話



木漏れ日が映っている大地を写真に撮り、ゆっくり先に進んで行く。




ゆっくり、ゆっくり。



風と木の葉の揺れる音以外、何も聞こえない。

シンと静まり返った森は、不気味なほど神聖な空間だった。


と、そこに。









──パァーンッ!











大きな音が響き渡る。

ここよりかなり遠くの位置…。


あたりを見回してみるも、多く立ち並ぶ木のせいで音の反響が大きい。

その音の根源がどこかを見つけることができない。




しかたない、と意識を耳に集中させる。







……ここから約2キロほど離れた位置。

衣擦れの音がした。

それと一緒に金属音も。




……あぁ、猟師か。





ここに来てすぐくらいの時、繁殖して数が増えてしまった鹿を狩っていると地元の人が言っていたのを思い出す。





しばらく狙撃もしていなかったせいか、

それとも猟に興味が湧いたのか。

私の足は、自然と音の方向へ向いていた。





しばらく歩くと、予想していた通り1人の中年男性がいた。


秋用肌寒い季節用の重装備で、重そうな猟銃を構えている。

驚かさないよう、私は猟師の集中が切れるのを静かに待つことにした。




…でもまぁ、ただ立ってるだけというのも…。

どこ、狙ってんだろ。






私は銃口の先を見た。




かなり離れた場所に、鹿が一匹いる。

大きさ的にオスだろう。


こちらに気づいているのか、猟師と見つめ合うようにして固まっている。

その視線は、まるで挑まれた勝負を余裕で引き受けるかのようだった。





ふっと、猟師の纏う雰囲気が鋭いものに変わる。


その瞬間、轟音が響いた。









──パァーンッ!












しかし、それは雄鹿の足元に当たっただけで、カスリもしない。


雄鹿は余裕なそぶりでその場を去って行った。





「あー、ダメだなぁこりゃ」


そういったおじさんに、私はわざと足音を立てて近づき、お疲れ様、と手でサインを送った。



「うおぅ!…って、噂の璃久ちゃんかいぃ?

こんなとこでどした?」



…あ。やばっ。なんも考えずに来たわ。


私はごまかしごまかし、猟銃を指差した。


「ブッ!なんだぁ?

女の子なのに、こんなゴツいもん好きなのかぁ?」


『あ、…あはは』




噂の璃久ちゃん、というのは若い私がこんな村に引っ越してきたからだろう。


狙撃につられた、なんて言えないためごまかした。


狙撃手を撃つことはあっても、こんな間近で他人の狙撃を見る機会はない。


私の狙撃技術は独学だ。

だからなおさら気になったのもあるのかもしれない。





……そういえば、人間ではなく動物を撃つ人を見るのも初めてだ。


無人島に放り投げられた時にはハンドガンやライフルを使って動物を狩ったりもしたのを懐かしく思う。




猟銃、結構重そうだ。

それに、自動式じゃない。



私が使ってる銃は自動式で、球が入っているシリンダーが 一発撃つたびにかってに回ってくれる。


でもこの銃はそれが手動式のようだ。

連射には向いてない。



つまり、猟銃は大量に狩ることではなく単体を確実に仕留めることを重視して作られているのか。




「璃久ちゃん、どしたぁ?

そんな難しい顔して」



不思議そうにおじさんは首を傾げた。

私は指をさしたりジェスチャーで何とか意思を伝えようとした。





『それ、重そう』


「おう!重いぞぉ〜!

璃久ちゃんなんて、ポッキリ折れちまうなぁ!」


「(そんなわけねーだろ…)」





私はそっと自分の背中に手をかけた。

そこには、組み立て式ライフルがある。


まだ表社会で生きるか、裏に残るかを決められていない。

だから、裏に残りたいと思った時に重さを忘れたくはなかった。




それに、その重さがないと不安になる。


いつ誰が襲撃してくるかわからない毎日を過ごしていて、突然平和になっても。



すぐに順応はできないのだ。




だから、腰に二丁の小銃、袖にそれぞれ二本のナイフ、そして背中のライフルは毎日持ち歩いている。


もちろん、使うつもりはない。




………というか、もし表社会に出ようと決めた時、こんな状態では防弾チョッキを着ていなければ生活できないんじゃないのか…。



なんて思いつつもある。







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