第150話
髪も嘘だ。
いつも、幸架が切ってくれていた。
私が自分でやると、極端に短く切る上、不揃いのバラバラになるから。
たまに距離感が掴めなくて、自分の首の皮や指を切ってしまうこともあった。
それを見かねた幸架が、定期的に私の髪を整えてくれていたのである。
………あぁ、まただ。
この半年、やっぱりふとした瞬間脳裏に浮かぶのは、幸架のこと。
今何してんだろ。
ちゃんとご飯食べて、寝て、休んでんのかな。
あの大量に巻いていた包帯はとれたんだろうか。
『行ってきます』
「気をつけてね〜!」
にこにこと手を振るミツナに手を振り返し、家を出た。
もうすっかり馴染みの場所になったが、わざと行ったことのない場所を選んで歩く。
そして、カバンにこっそり詰めていたカメラを持って、気に入った時間をそこに切り取って行く。
何かしたいとも思えず、何かしようとも思えない日々の中。
それなら、幸架に送りたい景色を写真に撮ってみようと思った。
自分のために撮る写真は、なかなかいいものが取れない。
だから、幸架と一緒に見たかったものや見せたかったものを写真に撮ることにしたのだ。
もちろん送ってはいない。
撮った写真は部屋にばらまいてある。
誰も私の部屋には入らない。
だから、写真のことは誰も知らない。
このカメラも、もともと自分で持っていたものだった。
仕事で下見をするときに使っていた。
組織内部や、次のターゲットの写真を撮ったりするためだ。
仕事で使うものだったため、フィルムも大量に残っていた。
この半年間かなりの量撮ったが、フィルムはまだ半数以上残っている。
今日は外れの方にある森に入った。
西側はほとんど見たから、今日は北のほうへ進む予定だ。
ゆっくりと足を踏み入れると、神聖な空気が流れていた。
「(…………綺麗、だな)」
視線を上げれば、木漏れ日がキラキラと揺れている。
今は9月。
わずかに枝に残っている紅葉した葉が、カサカサと音を立てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます