第144話
〜・〜
「(………あ、れ…?)」
いつのまにか朝だった。
どうやら、泣きすぎて疲れて寝てしまったらしい。
………というか、重い。
少し視線を左右に動かした。
…左右とも、両親の顔がドアップだった。
ミツナが私を抱きしめ、誠が私もミツナも抱きしめるように眠っている。
2人とも綺麗な顔をしているんだなと、この時思った。
朝の静かな空気。
澄んだ自然と、小鳥の流麗な鳴き声。
今まで知らなかったものが、ここにはたくさんあった。
こんな世界も、あったんだな。
「あー。起きてたか」
『ん。おはよ』
「あぁ」
誠が眠そうにあくびをした。
片腕は私だけでなくミツナの腕枕にもなっているため、抜けないらしい。
ちょっと複雑そうな表情をしながらも、誠はその腕を抜かずにじっとしている。
………なんだかんだ言いながら、誠の方がミツナにゾッコンなのかもしれない。
なんて、ゾッコンなんて言葉の意味を私はよく知らないけれど。
「寝れたのか?」
『うん』
「そうか」
『父さんは?』
「あー、久々にゆっくり寝すぎて、逆に不安?」
『ふっ。なんだそれ』
普段寝な過ぎなんだよ。
誠の顔色は、久々にいい色をしていた。
いつも死にそうなほど青白いからな。
「ん〜、誠さん、璃久ちゃん、大事に…」
「………なんだこいつ。
寝言でまで俺に説教かよ」
『ま、父さんの精神年齢は幼児並みだからな』
「………お前、そんなに俺に恨みがあんのか」
クスクスと笑っていた時。
ふと、誠がほんの少し思いつめた表情をしているような気がした。
『どーした?』
「なんでもねぇよ」
「(……………)」
そういえば、昨日も少し何か言いよどんでいた。
ここで何か伝えなければならない気がしたが、何を言えばいいかわからなかった。
だからとりあえず、
誠が冗談で言ったことに対して、
少し真面目に答えてみることにした。
『恨みがないわけじゃ、ねーよ』
「…………っ、…」
かすかに誠の表情が歪んだが、私は話を続けた。
『どうしたって何したって、あれは許されるもんじゃない。
実際、目の前で何人も死んだ。
人が拷問されて殺されるのもたくさん見たし、自分がそれをされることもあった。
やっとやっとで毎日生きのびて、
………でもそうやって生きてたって、そこに生きることへの希望なんて1つもなかった』
「………………」
『ただひたすらに生きてるだけで生きてけんなら良かった。
でも、ただ生きるだけのために命かけて戦うなんて、できない』
「………………」
何度も死にかけ、その度に這いつくばって生きてきた。
血反吐を吐くなんて言葉があるが、その通りに。
汚泥をすすり、毒を食い、底のしれない海でもがき、叫んで喚いて生きてきた。
でも、
『でも、私は自分の命を嘆いたことはなかったよ』
「………どうして、…」
『……私には、いつだって必要としてくれる人がいたから』
「…………幸架、か」
『私ずっと幸架幸架言ってるよなー。
でも、本当にその通りなんだ。
生きてる意味さえわかんなくなって、未来に希望もなくて、…幸架も同じだったはずなのにな』
──69《りく》、もうすぐだから、だから、…耐えて…っ
──もう無理だ。…俺は、捨てろ。そうすれば、320《さんにーぜろ》は助か、るんだ
──嫌だっ!
突然海に投げ捨てられた時だったか。
海のど真ん中で、陸のある方向さえわからなくて。
2人で必至にもがいて、もがいて。
でも私は途中で低体温症になって、動けなくなってしまった。
そんな私を
幸架はもうすぐだと言っていたが、遠目に陸が見える程度。
私を担いで泳ぐ幸架も、いつ体力がなくなるかも、低体温症になるかもわからない。
しかもお荷物状態の私は、低体温症がどんどん進んでいき、立つにもならないような状況だった。
──置いてけ。頼むよ。
………道連れになんて、したくない
──嫌だっ!
──それに、生きてても…生き残っても、俺たちどうせ、ロクな生き方なんて、できないんだ。…だったらいっそ、……どうせ殺されるなら、ここで…
──なっ、なぁ、リク!
幸架はその時、突然その場にとどまりだきた。
突然海にもぐり、もごもごと動き出したのだ。
溺れたのかと思い、私は慌てた。
でも幸架はすぐに水面に顔出した。
それからすぐ、着ていた服を私に被せたのだ。
それには流石に仰天した。
こんなことしては、幸架が凍える。
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