第143話




私は、躊躇いながらゆっくり手で言葉を紡いだ。




ミツナは今日ずっとはしゃいでいたから。

誠は早朝出発だから。


本当は今すぐ眠りたいはずなのに。





私のことばを、

じっと見つめてくれた。












『会いたい』

















本当は別のことを伝えるつもりだったのに。


ふと、心から思ってしまった、汚い願いを紡いでいた。





あんな綺麗事を言って、さよならしてきたというのに。







でも、温かい場所にいるからこそ、

家族を知ったからこそ、





幸架に、

会いたかった。







今思ってることを全部、

つたない私の語彙ごい能力では伝わらないかもしれないけど、


全部全部、幸架に話したかった。






幸架に聞いて欲しかった。






そして、幸架の話を聞きたかった。







なぁ。


今までどんな思いで私と一緒にいてくれたんだ?


どれほどの苦しさで、笑顔を見せてくれてたんだ?





なぁ、


本当は、













すげー寂しかったんじゃねーの?












家族がいなくて、愛されることも知らなくて。


唯一ずっと一緒に居続けた私たち。





どんなに孤独でも、私たちは2人で一緒だった。


たとえ離れなければならない時があっても、必ず帰ってくる場所は互いの場所だった。






できないことは互いにカバーして、

苦しい時は背中を押しあって、

苦しい時も励ましあって。


死にそうな時は本気で泣いて、

目を覚ました時も、死ぬほど泣いた。





それと同じ分、笑いあってきたはずなのに。






幸架の笑顔は、いつも苦しそうで、痛そうで。








誰に会いたいのか言わなかった私に、

それでも意を汲んでくれた2人は、私を慰めるように抱き寄せた。







「………璃久。幸架が好きか?」


『………うん』









そう答えた私を見て、

誠は少し、つらそうに笑った。












「そうか」











届いていないのは、

誰の想いなんだろうな。









ボソリと、誠がそんな風につぶやいた気がした。








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