第142話


〜・〜




夜も遅いと言うことで、誠と小豊は早朝に帰ることになった。


急ぎの仕事はないが、あまり長居すればミツナの居場所がバレてしまう。




ミツナを危険にさらさないために。

ミツナのお腹にいる子を守るために。


誠はいつも長居はしないらしい。






夕飯の時、私も誠も今日は泣き過ぎたせいで目元が赤くなっていた。


私と誠がお互いを茶化しあってるのを見て、

小豊は頭を抱え、間宮とミツナは楽しそうに笑って見ていた。






夕食後は、各々部屋に行って休んでいた。





私もシャワーを浴び終え、

部屋に戻ろうとしたところだった。






「璃久ちゃん、璃久ちゃん」


『ミツナさん?』


「うふふっ。気楽にお母さんって呼んでくれていいのよ?」


『あ、…それじゃあ。母さん』


「うんっ」






嬉しそうに笑うミツナは、まるで少女のような顔で笑う人だ。





「あのね、よかったら、今日は一緒に寝ない?」


『え?』


「ほらほら、行きましょー!」


『あ』






このパターン、多いなと笑いながらも、はしゃぐミツナについて行く。


途中で誠にもすれ違うと、ミツナは何も言わずに誠も引きずって行く。





「ちょっ、なんだよっ、おい!」





もちろん、誠の言葉などミツナは確定無視である。


そのままミツナの部屋に3人で入った。






「いいじゃない?

今日くらい、3人で寝ましょうよ」


「はぁ?んなもん、狭くて無理だろ」


「大丈夫。この日のために溜めてたお金でおっきいベッド用意しといたから!」


「お前…はしゃぎすぎだろ……」





うふふ、とミツナは笑う。


そんなミツナの言う通り、めちゃくちゃ大きいベッドが置いてあった。



よくもまぁ本当に…






「ね?お願い。今日だけっ!」


「…俺だけは男なの忘れてんじゃねぇのか?

3人で同じベッドなんて、狭いだろ」


「いいじゃない?パパだもんねぇ?」


「(ブフッ、…パパ?こいつがパパっ、

あははははははははっ!!)」


「……………おい璃久。聞こえなくてもな、

だいたい何言いてぇのかはわかるんだぞ」






けっきょくミツナの(超強制ちょうきょうせい力による)手招きにより、誠、私、ミツナの順にベッドに入ることになった。



………え。真ん中私?






「うふふっ。幸せねぇ」


「俺は肩身がせめぇよ」


「そんなこと言わずに、私と璃久ちゃん抱き締めてくれてもいいのよ?」


「なんでだよ。こいつに触ってみろ?

すぐ"セクハラジジイ"って言われるからな?」


「あらぁ〜?

そんなのただの照れ隠しじゃない!

組織のトップのくせに、心狭いのねぇ」


「………………」


「(ブフッ)」






何も言い返せずに顔を引きつらせる誠。

今日この表情を何度目にしただろうか。


面白愉快おもしろゆかいすぎて、笑いが止まらない(笑)。





ルナで仕事をしているときはいつもピンと張りつめた空気を纏っているから。

同じ人間なんだよなぁ、と不思議に思った。





「うふふっ」


「……お前、寝る気あんのか?」


「お前じゃないもん」


「もんって…」


「何か言いました?」


「何も申しておりません」


「うふふっ」







温かい。


左には父親がいて、右には母親がいて。

その母親の腹には、自分の弟妹がいて。





不思議な気分だった。






母親のいる風景も、

両親揃っているこの状況も、


初めてで。





幸架と湊には、父親しかいなかった。

ゼロは両親とも亡くなっていた。


私の周りには、家族が揃って生きている、という人がいない。





だからかな。

嬉しいのに、胸が痛い。






じんわりと目に涙が浮かぶ。



あぁ、泣き過ぎだ。

泣きすぎるから、いつか枯れてしまうかもしれない。



ツンとした痛みが鼻の奥を突き刺す。

目尻はカッと熱くなり、かすかに唇が震える。






と、突然頭に大きな手が置かれた。

少し雑に伸ばされた手たったが、その手は優しく私の頭を撫でてくれた。






「……何考えてんだ」


「(………………)」


「いっつも何も言わねぇんだから、今日くらい言ってみろ。

…いつもは父親らしいことしてやれないしな」


「(………っ、…)」





頭を撫でてくれていた手が、そっと目尻に溜まっていた涙を拭ってくれた。


さらに、ふわりと抱きしめられる。

抱きしめてくれたのは、ミツナだった。






「ねぇ、璃久ちゃん。

私たち、こんなに璃久ちゃんが立派な大人になるまで放置しちゃったダメ親だけどね、…。

…それでも、あなたのこと大事に思ってるのよ?」


「(……っ…)」







ぽろぽろ、ぽろぽろ。


とめどなく、滲んでいただけの涙が、再び溢れだした。







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