第141話
──コンコン
「(あ…)」
「おい、璃久…?大丈夫か?」
「(………)」
突然のノック音に、慌てて振り向いた。
声は誠のものだ。
急いでピアスを箱に戻し、服の間に隠した。
それから部屋を軽く片付け、ドアを開ける。
すると、誠は少し驚いたように私をじっと見た。
「………お前、足綺麗だな」
『………セクハラジジイ』
「うるさい。褒めてやったんだろうが」
『あんたの褒め方は間違ってる』
ほら行くぞ、と誠は階下へと歩きだした。
その背中について行く。
と、階段を降り着る前に誠が振り返った。
「なぁ、璃久」
「(………?)」
「……………いや、なんでもない」
「(…………)」
誠は何か言いかけ、それを飲み込んだ。
そのままリビングに戻ろうとする。
私はとっさにその腕を掴んだ。
「なんだ?」
「(…………)」
何を言おうとしたの?と聞こうとした。
でもきっと、答えてくれない。
頑固だからな。
わからないけど、ここに来て何となく言いたいことがあった。
声は出ないから、手で言うしかない。
声ではないのに、それを手で表すのは少しだけ、恥ずかしかった。
「璃久?」
『……、…父さんも、今日は泊まってけば?』
「………」
「(………?)」
誠が俯く。
誠の髪は少し長めだから、俯かれると表情が見えなくなる。
覗き込もうとした時、誠が片手で目を覆った。
「お前、……ほんと、…あーーーーーーー」
「(!?!?!?)」
突然誠が奇声を上げ始める。
…けっこうな声量で。
その声を聞いたから、リビングにいた3人も出てきた。
「木田さん、どうしたんですか?」
パタパタと小豊が誠に近寄る。
誠はいまだに目元を手で覆ったままだった。
私はどうしていいかわからず、誠の腕を掴んでいた手を離した。
「なんでも、ねぇよ」
「木田さん?」
「あー、うるさい。……今は聞くな」
「………はい」
誠がかすかに顔を上げた。
ほんの少しの瞬間だったが、それで表情が見えた。
誠は、……父さんは、
笑いながら、泣いていた。
ミツナがポツリと、
「あらあら、みんな頑張り過ぎちゃったのね」
と言って微笑んだ。
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