第140話



着替えたらおいで、と言って、ミツナはリビングに戻っていった。



私は渡された部屋着を見つめ、それから窓の外に視線を向ける。







ここに来た時は明るかった気がするのに、もう外は暗くなっている。



来ていた服は、男性物。

それを脱ぎ、渡された部屋着を着る。






薄桃色の、フリルのついた可愛い部屋着。

かなり短いタイプの短パンで、少し恥ずかしい…。



ふと、持ってきた自分の荷物が視線に止まる。






この荷物は、幸架が用意してくれたらしい。


直接話すことは止められたため、欲しいものを紙に書き出し、その手紙を幸架に渡してもらった。













──俺のことを想ってくれているのなら、

もう二度と俺に関わらないでください。














あんなことを言うから、頼んでも入れてくれないだろうと思っていたのに。



あの日買ってもらった服は、仕事が多くてあまり着ていなかった。


仕事も休むし、しばらく男装する必要も無くなったからと、買った服を詰めて欲しいと書いた。





幸架は、丁寧に畳んで全部入れてくれていた。


しかも、頼んでいない化粧道具一色まで入っている。

使い方もわからないものがほとんどだ。




幸架なら、知ってるんだろうか。










「(……あ、れ…?)」











荷物を漁っていると、奥底に見覚えのない小さな箱を見つけた。


無地の白い立方体で、割としっかりした箱だ。




なんだこれ?





一周させて見たが、特になにも書いてない。

もしかして、何かに紛れて間違って入れたのか?



見覚えはないし、私のでは…ねーよな。






開けるのをためらいつつ、しばらくその箱を見つめる。






………あ。








よくよく見れば、わずかな切れ目があった。


この位置にこれってことは…。

アクセサリーケースか?


ってことは、これ…






もしかして、幸架が好きな人のために用意したものなんじゃ…。


開けたらまずい…?






迷いに迷った。


でも、運搬時の衝撃で壊れていたらまずいし、確認はしたほうがいいだろう。



もしかしたら、幸架が誰かからもらったものである可能性もある。





だとすれば、箱の内部に何かメッセージなんかか書いてあるかもしれない。





意を決し、開けてみることにした。






見てはいけないものを見るような気分で、心臓が嫌な音を立てる。



ふぅ、と一息つき、ゆっくりと蓋を開けた。







「(あっ…)」







開けると同時にひらりと何か紙が落ちた。

その紙に手を伸ばし、広げてみる。








《壊してしまったので

同じデザインではありませんが


すみません》











急いでいたのか、殴り書き。

それも、上手く繋げていない文章で。



視線を紙からアクセサリーケースに向けた。








「(…………これ…)」













そこに入っていたのは、右耳用のピアスだった。


あの日…。

幸架と揉めたあの日、数個衝撃でピアスのピンの部分が曲がって壊れたのだ。



今は一つも耳についていない。






……あれ、気にしてたのか。

私でさえ忘れてたくらいなのに。








ピアスは普段から付けっ放しのことが多かった。


いつくるかわからない襲撃のせいで熟睡するようなこともほとんどなかったから、眠っている時に刺さったり壊れたりする心配もなくて。


外すのはお風呂の時くらいだった。


たまに軽い耳元が気になりはしたが、なんとなくでつけていただけだったから愛着もなかった。






「(………これ、どー見ても私に向けたやつだよなぁー…)」





誰へ、とは紙に書かれてはいなかったが、デザインが明らかに女性ものではない。


ゴツめのリングピアスで、羽が彫刻されている。


これを他の女性にあげようとしていたとは考えられない。



「(………………)」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る