第139話
「んー。…これじゃないわね。
こっち?それともこっち?」
「(……)」
ミツナは、私用に用意してくれていたらしい部屋まで私を連れてきた。
そしてさらに、私用に用意していたらしい服を出しては私にあて、考え直す。
…を、ずっと繰り返している。
『…適当でいーんだけど』
「よくないわ!あとで写真も撮るからね?」
『何故⁉︎』
「うふふっ。娘と再会できた記念日だもの。
……今日は誠さんも小豊さんも
「(…………)」
るんるんと鼻歌を歌いながら服を選ぶミツナ。
その後ろ姿を見つめながら、脳裏にいつかの会話が蘇る。
──璃久さん、なんで男物の服しか持ってないんです?
──必要ねーだろ。常にこの格好だし。
──ダメです。買いに行きましょう。
──はぁー?なんでだよ。
──璃久さんは女性だからです。
──いや、……まぁ、そうだけど。女物の服なんて、ヒラヒラしてて動きにくいし。
──じゃあ部屋着でいいですから。ほら、行きますよ。
──あっ、ちょっ、
そう言って連れて行かれた店の数、13軒。
ひたすらきせかえに人形にされた私は、家に着いた頃にはクタクタに疲れていた。
ちなみに買った服の数もすごかった。
……全部で24着。
全部スカートやスカートに見えるズボン(?)とかで。
最新のデザインについては私には名前さえわからないものばかりだった。
(スカートに見えるズボンはスカーチョというものらしいということを最近ようやく知った)
もちろん部屋着もその中にはあって。
風呂上がりに、気づけば買ったばかりの服が、丁寧にタグがとられて置いてあった。
幸架にお礼を言うと、買ったばかりの部屋着を着た私を見て、嬉しそうに"いえいえ"と笑っていた。
「……、く、…ん?…璃久…、璃久ちゃん?」
「(あ…)」
「大丈夫?何か…思いつめた顔してたけど…」
「(…………)」
嬉しそうに服を選ぶミツナと、
真剣に服を選んだり、買った服を着た私を見て笑った幸架が、
あまりにも似ていたから。
私は、無理やり笑みを作った。
『なんでもない。大丈夫だよ』
「そっか…。疲れちゃったのね。
今日はゆっくり休んでね」
そう言って、可愛い薄桃のパジャマをミツナが私に渡してくれた。
──似合ってますよ。
あの日着た部屋着も、薄桃色だった。
笑顔を作り、ありがとうと手で伝えた時。
ふと思ったのは、
幸架も、
こんな風に笑みを作っていたんだろうかと…。
私はそこで初めて、
"心配させたくなくて笑みを見せる"と言うことがどう言うものであるのかを知った。
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