第138話



家に上がり、リビングのソファに4人で座る。


もう1人、母さんの護衛らしき女の人──間宮がいて、その人が紅茶を入れてきてくれた。




入れてくれた紅茶は、ダージリン。

懐かしい香りがして、ようやく止まりそうだった涙が再び溢れてしまった。




途中、誠と小豊が何か言いかけたが、母さんが口元に人差し指を立て、それを止めた。



私が泣き続けている間、母さんは何も言わずにただ寄り添い、そばにいてくれた。






『ごめん。もう大丈夫』


「あらあら。もっと甘えていいのに」


『ありがとう。必要そうな時は、そうする』


「うふふ。

必要じゃなくても甘えていいのよ?」





母さんは手話ができるらしい。


私も、誠が仕事を片付けてる3日間のうちに覚えられるだけ頭に詰めてきた。




誠も小豊ももとから手話はできるらしく、今では少しだけ会話ができるようになった。


間宮は今勉強してくれてるらしい。

………申し訳ない。






「あ。私ね、木田ミツナっていいます!

よろしね?璃久ちゃん」


「「「………ブフッ!」」」


「(ゴホッゴホッ…ゲホッ…)」





全員がお腹を抱えて笑いだした。


母さん──ミツナだけが、首をかしげる。




「え?私、何か変なこと言った?」


「ふふっ、ふふふっ、ミツナさん。

璃久さんは生まれて今まで男装して過ごしてましてね…。ふふっ」


「えっ!どうして?」




小豊が笑いをこらえながら説明をした。

男装していた方が、女としてなめられたり、性的要求をされることも減るのだということなどを。




ミツナには、ものすごく驚かれた。




自分の中では当たり前のことだったせいか、驚かれるとは思っていなかった。





それにしても…。

"璃久ちゃん"、なんて。



違和感ありすぎて(爆笑)





「ダメよ!璃久ちゃん!

女の子なんだから、女の子として人生謳歌しなきゃ!」


「あははっ!

璃久ちゃんとか、似合わなッヴッ」


「………誠さん。

それ以上言ったら、怒りますからね?」


「ゴホッ、ゴホッゴホッ、

…も、…怒ってんだろ…」







足蹴にされる誠なんて、滅多に見れるものではない。


もうそれはそれは爽快感が最高だ。



私は指をさして笑ってやった。

……誠にはジト目で睨まれたけど。






「あ!じゃあせっかくだし、お着替えしましょう!」


『え』


「ほらほらこっち!」




突然立ち上がったと思えば、ミツナは私の手を引いて歩きだした。




「はしゃぐのはいいけど、無理すんなよ」


「はーい!わかってるわよ〜」





ミツナはずっと笑顔だった。







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