第137話



〜・〜



ドアを開け、ゆっくりと降りた。


肺いっぱいに空気を吸い込む。

汚れのない、綺麗な空気だ。





「あ・な・た〜♡会いたかったわ〜」


「うーわ…。

お前、いつからそんなキャラになったんだ」


「今からよ。娘に会えるんだもの。

女の子らしさ、アピールしなきゃ!」


「女の子らしさ?もうすぐ40のお前に女の子らしさな"ぁっ、ゴホッゴホッ、」


「あらやだぁ、なんて言ったのかしら?」





………今、思いっきり鳩尾みぞおち入ったな。


笑顔の女性は、思わず顔を引きつらせる私に気づき、近づいてきた。




「もしかして、…もしかしなくても、

あなたが私の娘の…?」


「(………)」




ぼんやりと女性を見つめた。


背は私より低い。

髪は黒の、ほんの少し癖のある柔らかそうなボブ。


肌は白すぎない健康そうな色で、目はクリクリと大きい。


どう見ても私と似ていない気がする。

しいて言えば、肌の色は似てるか?


でも木田は肌白いし…。

うーん…。




……もしかして、私って父親似…なのか?





「えっと、…私間違ってないわよね?」


「(あ。……え、っと、)」





思わずまじまじ見てしまっていたことに気づき、ブンブンと首を縦に振った。



そんな私を見て、女性はふわりと笑った。




「あらーっ!やっぱり!

だって、あなた誠さんにそっくりだもんね!

あ、でも、……」




女性が私の髪に手を伸ばす。

撫でるように、優しく。





「髪質とか顔の輪郭とかは、私に似てるのね?」




ふふふっと、女性は嬉しそうに笑った。


その顔を見て、"あぁ、そうかもしれない"と思った。



でも、やっぱり似てない。

私には、こんな顔はできないから。






あまりにも嬉しそうに、幸せそうに笑って。

あまりにも温かくて優しい手で。


……なんて理由じゃないかもしれない。





なんていう感情なのかはわからないけど、

何かが胸に込み上げてくる。



ようやく緊張の糸が切れたように、

気づかないうちに自分の首を締めていたものが解けるように、


ポロリ、と涙が流れた。





はっと目元に手をやり、何度も何度も拭う。





初めて…と言っても、生まれた時は会ってるわけだから、再開…になるのか。


再開した母親をしっかり見つめていたかったのに、たくさん話して見たいことがあって、

たくさん聞いて見たいことがあって、


それで、それで、…。





ボロボロとなく私を見て、木田──母親も木田姓になるので、今後は誠と呼ぶことにする──誠と小豊が驚いたような、動揺したような視線を私に向ける。



私も、自分が泣いている理由がわからなくて、

ひたすらに戸惑っていて。





でも。






目の前の女性…。

私の母親だけが、





「あらあら。

長旅で疲れちゃったのね」









そう言いながら、

温かくて柔らかい腕に、


私を包み込んでくれた。







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