第136話


〜・〜


璃久side




心地よい揺れで、つい眠くなる。


車に揺らされること半日。

………いや、…遠い、なー…。




「もうすぐ着きます」




小豊さほうがそう言う。


あたりはすっかり田舎町の風景だった。

緑の綺麗な、穏やかな空気と時間が流れている。




木田はずっと車の外を見ていた。

よくもまぁずっとそのままの体制で起きていられるよな…。

体バキバキにならないのだろうか。





あの日、幸架と別れた後。

私は木田に、「母親に会いに行きたい」と告げた。

そして少しの間だけ休暇を取ると言うことも。




木田はすぐに首を縦に振ってくれた。





とりあえず引き受けていた仕事で、残っているものがないかだけを確認した。


だが、思っていた通り私が引き受けていた仕事は幸架が全部終わらせていた。


中には狙撃の仕事もあったのに、よくやったなぁと思う。










あの3日後が今日。

木田も、"急ぎの仕事は終わらせた'"と言ってついてくることになった。


と言っても、木田は日帰りだ。

着いて早々に帰るとか。



半日もかかる道のりを、わざわざ往復するためだけに着いてくるとは。





木田さんが行くなら私も同行します、と言って運転は小豊になった。





「あ、……き、木田さん」


「なんだ」


「お、奥様が、お出迎えなさってますよ」


「…………は?」





ぼんやり窓の外を眺めていた木田の眉間にシワがよる。

そして前方をじっと見つめた。



私も木田の視線の先を追う。




丘を登って行ったあたりに、一軒の綺麗な二階建ての家があった。


その家の前にいる黒髪ボブヘアーの、わずかにお腹の膨らんだ女性が手を振っている。





「あいつ…。出迎えしなくていいって言ってあったのに」



不機嫌そうに言いながらも、嬉しそうにこちらに手を振る女性を見つめて、木田はその口元に優しい笑みを浮かべていた。 






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