昼休み
第135話
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東区桜祭り 1週間前
「ぅ……ん…?」
眩しい。
今は、何時?
体を起こそうとするも、全身の痛みにうずくまる。
言わずもがな、あいつが手酷く私を抱いたせいだ。
おのれ…。
許さん…。
股関節と膝が痛い。
散々貫かれた中も痛いし。
押さえつけられたせいで手形が痣になっね足や腕に残っていた。
と、いうか。
痣になる程押さえつけるって、相当な怪力だよね…
私のこと本当になんだと思ってるんだろうか。
めっちゃくちゃ痛いんだぞ?
本当に本当に痛いんだぞ!
やっとやっとで体を起こし、壁に寄りかかりながらふらふらと風呂場に行く。
床に座り込みながらシャワーを浴び、鏡で自分の全身を見て苦笑した。
綺麗な肌はない。
痣と、もはや傷にしか見えない噛み跡。
キスマークだって、もはや殴れた後のようにブチている。
酷いなぁ…。
前はまだ傷も痣もないところ、残してくれてたのに。
……最近何か不安なことでもあるのかな。
思考にふけり、考えてみる。
最近のあいつはおかしな行動ばかりだ。
取引だと言っては頻繁に家を空ける。
帰ってくれば、疲れたようにぐったりと私に寄りかかり、痛いほど抱きしめてくるのだ。
何を訊いても答えず、私がやっとふらふらせずに歩けるようになれば、また休む間も無く抱かれる。
その繰り返し。
あいつはいつ眠っているんだろうか。
「………はぁ…」
まぁあいつの心配について、全く心当たりがないわけじゃないんだけどね。
頻繁にあいつの前から消えては、ボロボロの体で現れる。
死んだと見せかけ、連絡を断つことも多々。
あいつのトラウマを作るには、十分すぎるほどに酷いことをしてきた自覚はある。
だから、私に対して過剰な接し方をする理由は理解できる。
バスタオルを肩に羽織り、浴室から出る。
そのままリビングには行かず、服や小物が置いてある部屋のドアを開けた。
相変わらずふらふらする足を無理やり動かす。
起きた時、あいつがここにいないのはわかっていた。
今は取引中のはずだ。
5時間は帰ってこない。
いつあいつが出て言ったのかは正確には分からない。
ても、部屋の状況や窓から入ってくる陽光でわかる時間から予測すれば、あいつが出て行ったのは約4時間前だろう。
あと1時間は帰ってこない。
衣装タンスからパーカーとズボンを適当に取る。
下着はないので、羽織っていたバスタオルを上半身に巻いてからパーカーを着た。
………パンツはないので諦める。
髪を乾かす時間はないので、適当にまとめたあと近くにあったウィッグを被った。
ここには、いれない。
私があの人の足かせになっているから。
客観的に見てもあの人は私にべったりなのだ。
殺してやると言うくせに、私を殺す気など全くないことくらい、知っている。
でも、それでは困る。
「………っ、ゴホッ………はぁ…」
もうきっと、私のウソなんてバレているだろう。
でも"これ"はまだ、バレていないはずだ。
私は真っ赤に染まっている自分の手を見て苦笑した。
口元についた同じ液体を手の甲で拭う。
バレたくない。
殺してくれないなら、側にはいれない。
もう桜が咲き始めている。
数日後には、満開になるだろう。
でももう、それまで耐えきれない。
せり上がってくる吐き気と痛みに耐え、深呼吸を繰り返す。
少し落ち着いた頃、マスクをしてフードを深く被った。
それから、隠していた自分用の財布をズボンのポケットに突っ込む。
「……ばいばい」
玄関で立ち止まり、振り返って小さく呟く。
その声は、静寂に包まれている部屋に飲み込まれて消えた。
ドアノブを回す。
眩い光が目を刺し、日光に肌が焼かれる…はずだった。
外の光を遮る、人影。
正面にいる人物の、ドアノブに手をかけようとしたのだろう手はそのまま止まっている。
思わず目を見張った。
正面にいる人物──あの人も、目を見開いている。
「………お前、…何して、」
計算では、少なくともあと30分は帰ってこないはずだった。
どんなに早くても、あと20分は帰ってこないはずだ。
自分の計算ミスに思わず舌打ちをする。
まだ相手は困惑していて動けない。
その隙をつこうと、思いっきり相手の股間に向かって蹴りを入れた。
さすがのこいつも悶絶するはずだ。
「……っ…、お、い…っ!」
「ごめんあそばせ」と心の中で叫びながら、よろめいたこいつの脇をすり抜けて走り出す…はずだったんですけど。
──ガッ!
…ねぇ。理不尽すぎません?
つーかさぁ。
お前に痛覚はないんかーい!
しゃがみこんでるくせに、こいつは私の手首を思いっきり掴んで引いた。
それでも逃げようとする私を、こいつは壁際に勢いよく押し付ける。
しかし。
「…っ、…っ、ゴホッゴホッ…」
その衝撃に耐えきれず、さっき耐えた吐き気が込み上げて来る。
やばいと思って耐えようとするも、耐えきれずに吐血する。
それに加え、胸に強烈な痛みが走った。
「………は…?」
「ゴホッ…ゲホッ、ゲホッ…っ」
まずい。
さすがに、これは…。
顔を上げた。
目の前にある彼の顔から、
表情が消えていた。
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