第131話




私、今、……。

幸架と、どうやって会話…して……。



「璃久さん?」


「(…………)」




気づいてはいけないことかもしれない。

たぶん、幸架は無意識にやっていることで。



そして、……たぶん、ずっと隠したがってた。





今なら、私でも幸架を引っ掛けられるかもしれない。


……でも、それは本当にしていいことなのか?

隠したがっていたことなら、聞くべきじゃないかもしれない。



………いや。


やろう。




どうせ、訊いたって幸架は答えない。

なら、やるしかない。






「(…………)」


「璃久さん?大丈夫、)」





口をパクパクと動かした。

適当に、パクパクと。





「帰りたくないって…。

木田さん、璃久さんのことすごく心配して、」


「(パクパク、パクパク)」


「わかってるけどって…。

それに、あんなことされたのに1人で俺に会いに来るの自体ダメです。

もっと自分のこと大事に、」


「(パクパク、パクパク)」


「……まぁ、その通りですけど。

俺も自分のこと大事できてないですが。俺はいいんですよ。

男ですし、ある程度無理しても壊れたりしません」


「(……………)」






……やっぱり。


ポタリ、ポタリと涙が溢れでた。






ずっと一緒にいたのに、気づかなかった。



私はずっと、幸架を苦しめてた?

もしかして、幸架がいつも苦しそうに笑っていたのは…。






「え、璃久さ、…なんで泣いて、…」


「(………)」


「璃久さん?…………あ」


「(………)」







たぶん、今のハッタリも今だからこそ幸架を引っ掛ける事が出来た。


いつもの幸架だったら、きっと騙せなかった。






だからこそ、ここまで完璧に隠されているとは思わなかった。







「(……………ごめ、ん)」


「……………」


「(ごめん、幸架)」


「………………」






両手をぎゅっと握りしめた。


涙を止めようとするのに、どんどん溢れて止まらない。







「………部屋、入りましょう」


「(………っ、…)」


「でも、警戒は緩めないでくださいね。

俺も、……もう耐えられそうにないんです」






俺も、の後は何を言ったか聞こえなかった。

それでも、何度も何度もこくりこくりとうなずく。





幸架が、恐る恐る私の手首を掴み、玄関のドアを開けた。









涙が止まらなくて、止まらなくて。

幸架の手が、やっぱり温かくて。








ごめん。



知らなかった。



全然、知らなかった。

知ってるつもりで、何も…。











まさか、幸架に、













母親譲ゆずりの"読心"があったなんて、















知らなかったんだ。










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