第103話




「このUSB、ほかの映像もありますよね。

流していいですか?」


「あぁ」




開理が頷いたのを確認し、終わった映像を止めて別なファイルを開く。





再生前の画面には、5月12日12時30分46秒の数字が表示されている。


今見た映像より前の記録だ。




それを再生した。






場所はエントランス。

ターゲットと待ち合わせしていたのは、エントランスの新聞置き場前。


ちょうど、今映っているアングルに見える位置だ。





「………来たな」





木田が画面を指差す。



ターゲットが現れた。

時間は、12時44分58秒。




ターゲットが指定の場所に座り、足を組んで新聞を読みだした。




そして。





12時45分55秒。

aが現れた。






じっと画面を見つめる。








aがターゲットと接触した。

ターゲットは初め、少し怒ったように立ち上がった。


だが、aに慌てた様子はない。


aは、何か身ぶりをする。

何を話しているかまではわからない。




何より、aは監視カメラに背中を向けている。

その状態では、拡大したとしても読唇術は使えないので、会話内容はわからなかった。




そしてその会話は数秒で終わる。



突然ターゲットがaの手を取り、興奮気味に空いている方の手を広げた。


そして直後、広げたその手をaの腰に回す。




しかしよくよく見れば腰ではなく臀部でんぶを撫で回すように触れていた。





「…………幸架。ターゲットの好みは?」


「強気でプライドの高そうな美女、だったかと」


「………俺には ターゲットが腰を抱いてる相手は男に見えるんだが」


「そこですよ、疑問点。

ターゲットは異性愛者です。

それを突然取引相手を男性に変えられたのに、交渉時間がこんなに短い。

…………かなりこだわりが強いターゲットだったのに、この反応はおかしい」


「2人がエントランスから出て行ったのが、12時46分2秒、か。

開理、交渉時間はどの程度だった?」



「………8秒、だな」



「…………ありえねぇだろ」






たった8秒で誘惑した?


その上、ターゲットは人目のつかない場所に行くのさえ待てないというように触れたがっている。


8秒でそこまでできる方法があるとは思えない。





だからといって、この2人が知り合いであるという可能性もない。


知り合いなら、aはもっと堂々としているはずだし、驚いたような反応はしない。





「……あ。映像終わったな」


「もう一つありますね」


「見るか」






再びパソコンをいじり、最後のファイルを開く。



またホテルの廊下のようだ。

アングル的に、最初に見た監視カメラと同じカメラからの映像だろう。



時間は…。

16時16分24秒。




かなり時間がたっている。






「…………再生するぞ」






開理がカチリとクリックすると、映像が始まった。



しばらく誰も通らず、時間だけが過ぎて行く。





「…………なんだ?」






映像が始まって6分後。

16時22分23秒。


複数人の黒服達が、慌てたようにターゲットの入っていったドアをこじ開けて入っていった。





「あ。これ、蜘蛛だな」


「え?」


「たぶん第3部隊だ。

最初に部屋に入ったやつが隊長だったはず」




木田の声に、開理が映像を巻き戻して隊長らしき人物を拡大、画質上げをした。



大きく映し出された顔を見て、木田が「間違いない」と頷く。






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