第102話
「………おかしいですね」
「そうだな。
なんでこいつはお前に変装してるんだ?」
「それもですが、他にもおかしな点ばかりです」
他に変なところなんてあるか?と木田と開理が画面を覗き込む。
俺は開理から操作を代わってもらうよう頼み、2人の顔をピックアップした。
拡大すれば画像が荒くなる。
切り取った画像を、再び画質をあげていく。
「……これ、よく見ればお前とは似てないな」
「そうですね。服と背格好、髪型は似てますが、顔は全然違いますね」
拡大した画像をじっと見つめる。
切れ長の瞳に、うっすらと笑みを浮かべた薄い唇。
耳にはいくつかピアスホールが開いているようだが、一つも耳にピアスはつけられていない。
……明らかに俺と似ても似つかないその容姿は、俺に似せる気はさらさらないように感じた。
それ自体おかしい。
似せる気がないなら、変装なんてしなければいい。
画像から視線を逸らし、今ある情報を頭で整理する。
ターゲットが俺の顔を知らなかった、という可能性はある。
元は璃久が取引する予定だったのだから。
だからこそ、おかしい。
「俺がわかるおかしな点は3つ、ですね」
「3つ?」
「はい」
切り取った2つの画像を端に寄せ、再び映像を流した。
ターゲットに手首を掴まれ、まるで引っ張り込まれるように部屋へと入っていく俺に似た人物。………今はaとでも呼んでおこう。
ターゲットに続いてaが部屋に入って行ったのを確認し、俺は話を進めた。
「まず説明ですが、この依頼は璃久さんが引き受ける予定でした。
………依頼内容は、ハニートラップです」
ここは別に珍しい仕事内容ではない。
…まぁ、2人とも複雑な心境ではあるだろうが、それは無視して話を進めた。
「でも、この前日…。
つまり5月11日ですね。
11日の夜、璃久さんに…、酷い傷をつけました。
だから、動けない璃久さんに変わって、俺がこの依頼に向かいました」
「なるほど」
考え込むようにじっと我慢を見つめていた木田が、ふと何かを思い出すように顔を上げた。
「待て。代わりにって……もしかしてお前…。
俺たちがお前を捕まえた日に お前が持ってたあの媚薬、それで使ったやつか?」
「ええ。俺は男を相手にしたことはなかったので。
「…エゲツな。それ、打たれたらどうなるんだよ」
「興味があるなら打ってあげましょうか?
異性愛者の処女男性でもカライキできるくらいすごいらしいですし。
………原液のままですけど」
「……お前はそんなに俺が恨めしいか?
……知ってたけどな。
知ってはいたけどエグすぎるだろ?
嫌がらせにしたって、せめて薄めてくれ。
そしていつからそんな言葉覚えるようなやつになったんだよお前」
私の発言に、なぜか全員ドン引きしたらしい。木田と開理の顔がひきつり、親則の表情が青くなった。
開理がボソリ、"もはや悪魔も逃げたくなる所業だな…"と言ったのは聞こえなかったことにする。
私自身はそんなにエゲツないことをしようとした自覚もないしもう気にしていないので、再び画面に意識を向ける。
あの日、ターゲットは現れなかった。
少なくとも、私がこのホテルに着いた段階ではもうすでにエントランスにはいなかった。
そして、私はaを指でなぞる。
明らかに、aの行動はおかしい。
「………どう考えてもやっぱりおかしいですね。この日、俺が代理で依頼を引き受けたと知っていたのは2人だけなんですよ」
「2人?」
「依頼主と、璃久さんです」
「…………え?あれ?じゃあなんで、ターゲットの後ろにいたのは"幸架に変装した男"なんだ?」
首をかしげる開理に向けて軽く頷く。
まず1つ目。
もともと依頼は璃久が引き受けたものだったにも関わらず、aは俺に変装してターゲットと接触した。
そして2つ目。
今回の依頼はハニートラップ。
何故わざわざ男の俺に変装した?
仮に璃久ではなくて俺が代理で依頼を引き受けたという情報を持っていたとして、俺に変装する必要は全くない。
なぜなら、ターゲットは俺が代理で来ることなんて知らなかったからだ。
女である璃久に変装して近寄ったほうが確実に楽なはずなのに。
そして3つ目。
女が来ると思っていたのに、男がきた。
その場合、普通は取引をやめる選択をするはずだ。
説得するなり脅すなり方法はあるが、ターゲットに手を引かれるaの様子を見る限り、脅した様子はない。
それどころか、ターゲットは緊迫した様子ではなく、むしろ早く行為に及びたいように興奮している様子が映像から見て取れる。
………まぁ、画質あげたときにズボン中央に膨らみがあったからそう思っただけだが。
でもこの反応もおかしい。
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