第94話




「あ、親則さん。

聞きたいことがあるんだが…」





顔を上げると、組員と話が終わったらしい2人が自分の席に戻ってきた。


椅子に座りながら、開理が親則に話しかける。





「あ、はい。なんでしょう?」


「親則さんは何しにここまで?」


「あ。その、実は…」




親則は困ったような表情を浮かべた。



でも、その表情は困ったというより少々呆れたような、と言ったほうがぴったりな表情だ。







あずさが帰ってこなくてですね…」





アズサ…?

聞き覚えのない名前に、俺は首を傾げる。


しかし、開理と木田はその名前を聞いた瞬間に頭を抱え、ため息をついた。





「またかよ…あのクソガキ…」


「よく逃げるなぁ、あの子は」





木田と開理は知っているらしい。

……というかかなりご存じな感じの人であるようだ。



"また"かと言ったところを聞くと、どうやら今回が初めての失踪しっそうではないらしい。





「あはは…。すみません。

如月さんには、先に報告に行ってきました」


「………あのアホが言いそうなことはたいてい予測できるけどな。何て言ってた?」


「捜索は木田さんに任せておく、と」


「あいつ…。毎回毎回俺にアズサ押し付けやがって」


「………アズサって、どなたです?」





口を挟むのはどうかとも思ったのだが、とりあえずダメ元で聞いてみることにした。


だが、案外普通に答えてくれるらしい。

あ、そうだよね、と親則が答えてくれた。





「アズサはね、俺が引き取った裏出身の子なんだ」


「なるほど。……たしか、解放運動の一環でされているボランティアですよね?」


「そうそう」





裏で、合意なく実験台にされていた未成年に適応された活動だったはずだ。


引取先が決まった子には戸籍が与えられ、指定の学校に通学することが許されるようになった。




取引き先との関係は、話し合いによって決まるようになっている。


親子になるか、夫や妻になるか、はたまた保護者も言うだけの他人になるか。






「俺はアズサの保護者なんだけど、たまにこうやってかってに何処かに行っちゃうことがあってさ…」


「あのクソガキ、サボり常習犯なんだ。

しかも、戸籍までもらって表の人間になったくせに、裏に手を出して回りやがる」


「裏に手を出して回る?」





ものすごく嫌そうな表情を浮かべた木田が、アズサの人格について話してくれた。


………けっこうとんでもない性格らしい。





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