第95話
「安定して来たとはいえ、裏はまだ全部統制が取れてるわけじゃねぇ。
好きかって暴れてる真っ黒な組織は、だいたいルナが率先して潰してるんだ」
木田がコーヒーを一口含んだ。
それから頬杖をつき、深いため息をつく。
「アズサはな、かってに一人で動き回っては、そのブラック指定の組織にちょっかいふっかけて潰しながら遊んでんだよ」
「え。……一人でですか?」
「そう。一人で。
……あいつ、いつかブラック以外もやりそうだからな」
「ヒヤヒヤが止まらないよ…」
親則の顔色がほんの少し青ざめている。
たしかにそれはシャレにならなそうだ。
「すごくいい性格してますね。でも…」
「あぁ。…ムカつくくらい、頭はいい。
まぁまだガキだしな。
今のうちになんとか大人しくしてもらえるようにしようとは思ってる」
子供のうちに善悪を叩き込めば、大人になってからはそうとうなことがない限り悪に走るものはいない。
それにしても、ずいぶんとまぁヤンチャだな。
「女の子にしては活発なんですね」
「アズサは男だ」
「え?…でも、アズサって女性名では?」
木田はまだ苛立っているのか、落ち着かないのか、頻繁にコーヒーを口に運んでいた。
首をかしげる俺には、親則が苦笑気味に答える。
「引き取る前に、もうすでに名前あったみたいでね。"梓"って呼ばれてたから、それで呼んでくれって」
「なるほど。
……とすると、新東高の生徒ですか」
「そうそう。
新東は蜘蛛の管轄だから、如月さんには先に報告しに行ったんだよ」
なるほど。
でもまぁ、頻繁に失踪するなら、学校への聞き込みもあまりしていないのだろう。
「あ、でもね…」
親則が口ごもる。
木田と開理はあまりそれを気にしている様子はない。
でも、俺はじっと見つめて話を聞いていた。
「いつもなら1週間すれば返ってくるんだけど、……もう、1ヶ月以上帰って来ないんだ」
それにはさすがに驚いたらしい。
木田と開理がピクリと反応した。
「1ヶ月以上?いつからですか?」
「最後に家で見かけたのは…5月13日、かな」
木田が目配せし、開理がスマホを確認した。
今日は、6月20日。
「それで、連絡が取れなくなったのはいつです?」
「連絡が取れなくなったのは次の日からだよ。
次の日の昼過ぎ、かな」
「最後の連絡では、何を言われましたか?」
「電話が来てね。"
「ターゲット?心当たりはありませんか?」
「うーん…」
親則は考え込むが、心当たりはないらしい。
でも、アズサは"しばらく帰らない"ことをわかっていて動いたことになる。
「それと、アズサから連絡がなくなったその日の日付でこれが送られて来たよ。
届いたのは昨日だけど…」
そう言って親則は鞄から大きな袋を取りだした。
茶色のどこにでもあるような封筒だ。
開理が受け取って中身を取り出すと、一つのUSBだった。
開理がパソコンを取りに行くと席を立つ。
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