第93話
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「………そっか。…そうだったんだね」
シン、と部屋は静まり返る。
重い空気が漂った。
机に乗せられた木田の手は、震えるほどきつく握られている。
本当は全力で俺に殴りかかりたいんだろう。
もし俺が木田と同じ立場なら、何も考えず殴っていた。
よく、耐えている。
「………幸架」
「………はい」
「じゃあお前は、……璃久が今どこにいるか、知らないんだな?」
「えぇ」
「…………わかった」
必死で普通の声を出そうとしているのか、木田の声は少しだけ震えていた。
それからガタッと音を立てて立ち上がる。
それに合わせて開理も立ち上がった。
それから近くに控えていた組員に璃久の捜索を命じる。
私は、組員と話をする2人の背中をぼんやり見つめた。
「…………秋信さん」
「…………はい」
「嘘、ついてるよね」
「…」
びくり、と思わず肩が震えた。
ゆっくりと顔を上げると、穏やかに笑みを浮かべる親則と目が合う。
「突然のことで受け入れられなかったのも、自分を抑えられなかったのも本当だと思うけど。
……秋信さん、ちゃんと冷静だったよね?」
「………………」
親則と二人で話す、なんて機会はそうそうないせいか、少し不思議な気分だった。
そしていつもは璃久が親則と話していて、私はたまに相槌を打ったり質問する程度だった。
だからか、親則と話していると何でもつい言ってしまうと言っていた璃久の気持ちがようやくわかった気がする。
片目は眼帯で隠され、眼帯を隠すように少し伸ばされたふわふわの髪。
足に少し障害があるための、傍にかけられた杖。
親則のふんわりとした雰囲気のせいもあるだろう。
でもきっと、それだけじゃない。
疑問で俺に訊いてきてはいるが、確証を持って言っているのがわかる。
木田が気づいていないことを、この人はあっさり気づいてしまう。
きっと私だけが気づかないうちに、何かヒントになるような言動したのだろう。
……そうは思っても、そんな言動をした覚えは1つもないし、思い浮かばない。
思わずふっと笑った。
「
親則はキョトンとした表情を浮かべ、それからふわりと笑った。
「君ほど
あぁ、…やっぱり。
璃久さんが慕う人は、こういう人ばかりだ。
俺がどんなに隠そうとしたって、誤魔化せないのだ。
敵わないなぁ…。
小さく、本当に小さく。
苦笑を漏らした。
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