第91話



「……お前は璃久に隠れることによって、自分を隠した。

そのせいで、俺の手元に届いた記録にはその筋力についての詳細しか書かれてなかった」


「………」


「………間違ってたら言え。

幸架、お前……。それだけじゃねぇだろ」


「………」





さすがというか、なんというか。

この人はやっぱり聡い人だ。



騙すには、もう少し慎重になるべきだった。

というよりも、もう私自身が限界だったんだろう。





隠せるほど、もう抑えられなかった。







「…………何だと思いますか」


「…………」


「別に特殊があるとして、あなたは何だと思ったんです?」





私から言うつもりはない、と案に告げる。


もちろんそれに木田は気づいていて、顔を険しく歪ませた。

…たぶんまだ、詳細はバレていない。



"それだけじゃない"ということしか、バレていない。





「………わからない。ただ、予想はしてる」


「…………」


「お前と湊は兄弟だ。…湊に持っているものをお前がもっていなくて、逆もしかりだと聞いた。

…でも案外そうでもねぇんじゃねぇのか?」


「………なるほど」





やっぱり。


予想はされていても、まだバレてはいない。




それならば…。






「残念ながら、俺にはあんな知能もないし、超回復もできません。それは知ってますよね」


「あぁ。……その腕見りゃわかる」





包帯まみれの自分の腕。


正気を保つので精一杯で、身喰いした結果だ。

一ヶ月もたっているというのに、まだふさがっていない。



湊と同じ、または似た特殊があるというのなら、この傷はもう塞がっているはず。



そして俺にずば抜けた知能がないのも。

そんなものがあるなら、この異常な筋力はコントロールできていたはずだ。


力の加減を理解できていない俺に、そんな知能がないのは明らか。





「…俺がわかるのは、本能的にゼロを求めた湊と同じように、お前が本能的に璃久を求めてるってことだけだ」


「…………」


「それとお前が持ってる他の特殊にどういう因果があるのか、俺にはわからない。

でも、…」




木田がぎゅっと拳を握る。

それから、包帯の巻かれている自分の首に触れた。


まだかすかに血の滲んでいる。





「……でも、お前が自分の中の"何か"と葛藤してんのは、……わかる」


「……………」


「わかってて、それから目を背けた。

手に負えねぇし止められねぇし、あんな方法をとった。

………親則の言った通りだ。俺は何も変わってない。あの時から、何も…」





あの時とは、きっと咲夜を罠にはめて殺した時か。


ひたすらに後悔をその瞳に浮かべて。

今でも彼は、自分の親友に懺悔し続けている。





「………本当の"狂人"は親則の言うとおり、俺らの方だな。

お前の方が、よっぽど人間らしい」


「ははっ。…あなたが、それをいいますか?」


「それもそうだな」







誰も救われはしない。


過去に戻って実験をなかったことにしたとしても、俺たちが救われることはない。


なぜなら、実験がなければ俺たちは生まれてなど来なかったのだから。






だからと言って未来に進むことを考えようとか、そんなことを言ったところで過去は変えることはできない。



罪は罪であり続け、許されることはないのだ。






そして、許せるようになることも、ない。







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