第72話


〜・〜


木田side







「……っ、…」







息がつまる感覚で目が覚めた。

不思議と痛みはない。





どうやら、打たれたのは睡眠薬ではなく麻酔だったらしい。

麻酔の割に目がさめるのが早かったのは、俺が普段から薬に慣れるよう訓練していたからか。








視界の端で影が動いた。








ゆっくり上体を起こすと、倒れている幸架の前に人影がいるのがわかる。









「誰、だ」


「え。……起きるの早くねーか?」


「璃久…?」








強い麻酔だったのか、頭がガンガン痛む。

片手で頭を抑えながら、霞む視界の中、こちらに近づいてくる人物を見た。



やはり璃久のようだ。








「お前、なんでこんなところに…。

っていうか、怪我してるみたいなこと聞いたんだが」


「あーっと、それはだなー…」


「…………」









様子がおかしい。


なにより、危険を承知で幸架の前にわざわざ戻ってくるか?


ありえない。








「………お前、誰だ」


「は?」


「璃久じゃ、ねぇな」


「あー……やっぱわかる?」


「……………」


「あっ、ちょっ!いやいや!

俺は敵じゃねーよ⁉︎

頼まれて来ただけなんだって!本当に!」


「………頼まれた?」







璃久の姿をしたこいつは、ポケットから紙切れを取り出して説明を軽くしてくれた。


幸架にも話したらしい。




伝言…。

一体誰から?なんのために…。








「いた!おい!木田発見!こっちだ!」


「………開理か」


「んじゃ、私はおいとまさせてもらうわー」


「待て」


「グッフォッ」





立ち去ろうとする謎の人物──とりあえずXと呼ぼう。





とっさにXの膝に蹴りをいれ、膝カックンをした。

見事にカクンと膝を崩折れさせたXはその場でしゃがみこむ。







我ながらナイス膝カックンだ。








「木田、怪我は……璃久か?」


「いや、違う。

……田辺たなべ、とりあえず手錠かけて拘束しておけ」


「はい」


「えっ、ちょっと⁉︎なんで⁉︎」








近くにいた部下に指示を出すと、部下──田辺と他数名がXを取り押さえる。



その間にXから聞いた話を開理に話した。





「………頼まれた、伝言…。

1人じゃないのか、こいつ」


「そうらしい。

………それより、幸架が起きると面倒だ。

対処のしようがない」


「……そうだな」


「開理。……嫌かもしれねぇけど、落ち着くまでは鎮静剤打って地下牢に繋いでおいた方がいい」


「………わかってる。まだ死者が出てないことが幸いだったな」


「あぁ」


「璃久も探した方がいいんじゃないのか?」


「そうだな。幸架の口ぶりだと、俺以上の怪我してるのは確かだろうし。

………何があったのやら」








璃久、璃久とあんなに大事にしていたのに。




幸架自身も相当な怪我だ。

まぁ自分でつけた傷なのだろうが、自分を抑えるためにこれだけするとは思わなかった。





それに、これだけしても自分を抑えきれないとは。

幸架は、今想像を絶する苦しみの中にいるのかもしれない。








それでも。







何故、愛する人に手をかけた?


こいつは俺の首食いちぎった。

それに抵抗した手首は折られたし。


俺を璃久と間違っている様子だったことを考えれば、ますます何でそんなことをしたのかわからない。







「……あ、木ー田ーさん!

そいつ、気絶させただけだから麻酔とか鎮静剤打っておいた方がいーぞー」


「んなもん手元にあるわけねぇだろ」






手錠をされ、さらに縄でグルグル巻きにされたXが話しかけてくる。


腕だけでなく足も拘束してあるため、座ることもできずにその場に横になった状態だった。


酷いわーと言いながらうねうねするその姿。







………縄でグルグル巻きにされているせいで、イモムシに見える。








正直、キモい。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る