第63話





キンッ!と金属がぶつかる音がする。









男2人の喉元めがけて投げたナイフが、何かに弾かれた。



チラリと不自然な方向に飛んでいったナイフな視線を向ければ、落ちているナイフが"4本"。




投げたのは2本だ。








シン、とその場が静まり返り、俺のナイフを弾いたナイフが飛んできた方向に視線が集中する。





しかし、そこには誰もいない。

人がいる気配もない。









でもまぁどうでもいいだろう。


不測の事態に、全員の視線がそれている。











リクの口を強引に塞いだ。


ただでさえ首を締められて声の出ないリクが助けを呼べるわけもなく。



そのまま首を締めていた手を離し、袖から滑らせた注射式の麻酔を首に刺した。





即効性のそれで、リクはすぐにグッタリと俺に倒れ込み、意識を飛ばす。


倒れ込んできたリクを、そのまま横抱きに抱き上げた。









この動作、ナイフが飛んできた位置を確認するところからリクを眠らせるまでの全てにかかった時間は、約5秒。



まだ誰も気づいていない。







足音を殺し、その場を離れた。
















首の出血が酷いリクのために、あまり揺らさないように走った。



しかし目的地などない。








いつの間にか町外れ、東区まで来ていた。



璃久とよく来た。

《カフェ 樹々》がある通りだ。





親則に会いに行こうと約束したのに、いまだその約束を果たせずにいる。













………なんて、もう会いにはいけないか。















ふらふらと歩いていたが、途中で自分の意識も朦朧もうろうとして来ていることに気づいた。




それもそうだ。

理性を保とうとして身喰いしていたわけだから、俺自身貧血状態。





人通りの少ない場所まで来たところで、路地裏に入った。



適当に進み、絶対に人が来なそうな奥地まで来たところでパーカーを脱ぎ、そこに璃久を寝かせた。



もともと黒の長袖インナーを着ていたので、別段不都合はない。



懐から包帯と止血剤を取り出し、リクの首の止血をした。









貧血状態でクラクラしているせいか、さっきより理性が少し戻ってくる。



離れなければ。

理性が保つうちに。








早く、はやく、ハヤク…。
















「…………っ、…っ」
















苦しい。

つらい。








離れたくない。









グッタリと横たわるリクの手に自分の手を重ねた。












誰でもいい。















誰でもいいから、


















俺を、止めてくれ。


















それができないのなら、


















まだなんとか、わずかながらに理性が残っている今、




















殺してくれ。









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