第62話




「くっ、そ…っ。

何が、どうなってんだよ…っ」



「木田さん!」

「木田!」





周りが騒がしくなってきた。


でもどうでもいい。


関係ない。






細い首をギリギリと締め上げていく。






リクは、苦しそうに空気を求めて必死に左手で俺の手を解こうとしていた。












──パーンッ!


















銃声がなる。


何となく気配で撃たれることはわかっていたため、避けるのは簡単だった。

上体を軽く下げると、その弾は的外れな位置に弾痕を作る。



チラリと視線を音源に向ければ、険しい顔でこちらに銃口を向ける集団に囲まれていることに気づいた。






「木田から手を離せ、幸架」


「…………」


「お前、何してるのかわかってるのか⁉︎」


「…………」


「クソッ。おい木田!お前がそこにいると誰も撃てないんだよ!

何とかして幸架から離れろ!」


「無、理だ、…っ、ど、…したって、

力の、差、…がっ、」









リクの首の皮膚が、俺の爪が食い込んで裂けた。



俺は片手しか使っていないのに、リクの抵抗は弱すぎて全く意味もなしていない。



いつもならナイフなり銃なり使って逃げ出すくせに、今日はされるがままだ。








「璃久、さん…」


「さ、ちか…っ、

俺は、璃久じゃ、ねぇ、よ…っ」


「璃久さん…。

…………璃久、さん…」


「幸架……っ、聞、けっ」


「璃久さん…。

何で、…何で来たんですか。

ライフルまで待たせたのに、なんで俺の目の前にこんな無防備に現れたんですか」


「………っ、…」


「よくよく見ればなんの装備も持ってないじゃないですか。

本当に俺に喰われにでも来たんですか。

あんなことした俺に八つ当たりですか?

でも、それにしてはずいぶん捨て身ですね」


「お、前ら、本当に、何が、…ぁ、ったん、だよ」


「璃久さん…璃久さん、………りく、さん」







頭がおかしくなりそうだ。


いや、もうおかしいのだろう。






リクの首からはとめどなく血が溢れている。

俺がその傷部分を掴んで首を絞めているせいもあり、出血は止まらない。



だから、出血が多すぎて、浮いた足からポタリポタリと地面に赤い模様を作っていた。




リクの首を絞めている俺の右手も、もうすでに赤く染まっている。







「くっ、そ…っ。

お、い!小豊、楽生っ!

俺に、当たっていい、からっ、撃て!」



「んなのできるわけねぇだろ!」

「そうですよ!当たりどころ悪かったらどうするんです⁉︎」



「関係、ねぇ!

このまま、じゃ、市民、に、犠牲がっ、出る!

幸架が、俺に気をとられてる、間に、

は、やくっ…」







リクの言っている意味がわからない。


誰に向かって言ってる?

何に向かって話してる?





何を、見てる?










気に入らない。












不快だ。

















リクの視線を追うと、集団の中心にいる2人の男が視界に映った。














あぁ、あの2人か。



今、リクが見ているのは、




あの2人か。





















スルリと投げナイフを2本、左手に滑らせた。



それに気づいたリクが逃げろとか細く叫ぶ。










突然叫ばれたそれに男2人が反応できるわけもなく。





左手に滑らせたそれを、なんの躊躇ちゅうちょもなく、加減もせず力任せに投げた。







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