第57話




「代わりに僕が試してあげる」





どうやって解いたのかわからないが、アズサの手足を拘束していた縄は外れていた。


そして、私の腕に刺さっていた針を抜いたのはアズサ。



その針をそのまま自分の腕に刺し、ためらいなく中身を自分に注射したのもアズサ。






もはや、誰も何も言わない。


否。言えない。





呆然と、アホのように口を開けたまま見つめることしかできない私と目の前の集団。




「うわー。すごいね。即効性か。強烈」




棒読み…。

とても効いているようには見えない。





「………効いてる、のか?」



「効いてる効いてる。

っていうか、効果切れるの早すぎない?

それともそういうのが目的?

こんなのたくさん打ってたら、すぐ禁断症状出そうだね」


「………お前、何なんだよ」


「見てわかんない?高校生だけど?」






………………。



この異様な空気を、どうすればいいんだ…










何度でも言おう。


何故、こうなった?











「で、おじさんたち?

僕を拷問しないの?お姉さんよりたんまり情報持ってるよ?

セックスしたいなら付き合うし」


「お前、拷問のセックスがどういうものか知ってるのか?

というか、自分の性別理解した上で俺らに言ってるのか」


「知ってる知ってる。

割とそこらへんの裏住民より詳しいと思うよ。

……まぁ、放送事故みたいになるから具体的にはここで言わないでおくけど」






カラン、と音を立てて注射器が音を立てて床に落ちた。


アズサがそれを放り投げたからだ。



アズサはゆったりとした歩調で坂上に近寄り、その耳元で何か囁いた。





熱に浮かれているせいなのか、いつもは聞き取れるはずの音が聞き取れなかった。



なんて、言ったんだ?







アズサが坂上の耳元から顔を離し、ニヤリと笑う。


それと同時に坂上も満足げに笑みを浮かべる。






「へぇ…。確かに、お前を拷問するのは楽しそうだ」


「勝負しよう?坂上さん。

どっちが先に首を取れるか、ね」










不穏なやり取りを見つめていると、パサリと肩に何かをかけられた。


視線を自分の体に向けると、毛布がかけられていた。




顔を上げると、私を拘束していた男数名がパタパタと動き始めている。



それをぼんやりと見つめている間に、あれよあれよという感じで色んなことをされた。





まず、服を脱がされて体を拭かれ、生理用の下着をつけられ、温かいパジャマを着せられる。


そしてベッドに寝かせられ、風邪薬と鎮痛剤、脱水気味の私のために点滴までされた。




………待て。





おい。


いや、待てよ。




手厚すぎないか?


私、人質なんだよな?



何で看病されてんだ?









「いいですか?絶対安静ですからね。

あなたが死んだら、強制的にアズサとかいうガキの勝ちになるからって仕方なく何ですから」





あぁ…。


どうやらアズサのおかげらしい。









もとから体がつらかったこともあり、私はあっさりと意識を手放した。







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