第56話




「ねぇ、クソジジイども。

そのお姉さんより、僕の方がよっぽど危ないと思うよ?」






ピタリ、と坂上の動きが止まった。


針は腕に刺さっているものの、液体はまだ注射されていない。




坂上の手元から視線を晒さないよう注意しながら、アズサに意識を傾けた。





突然、何を言いだすんだ?






「どういうことだよ、クソガキ」


「そのお姉さんの怪我、秋信がやったんだよ?」


「そんなわけないだろ。

秋信と往焚は仲間だぞ?」


「でも本当だし。ねぇ?お姉さん」






にっこりと微笑まれた。


坂上の視線が私に向く。

ここで嘘をつくのは得策ではない。


私は1度、しっかりと頷いた。





「なっ、…嘘だろ。

仲間にこんな怪我をさせるか?普通」


「しないよねぇ。

あと、僕は秋信の居場所、……知ってるよ?」


「なんだと…?」







アズサが、クスリと笑った。







「それとさぁ、薬漬けにした後にお姉さんマワそうとしてるみたいだけど、今お姉さんにクスリ打ったらお姉さん死ぬよ?」


「は?何でだ」


「お姉さん熱あるし。

その"麻薬の成分"さぁ、熱ある時に打ったら死ぬようなやつ、入ってた気がするんだよねぇ」


「………これは新薬だ。昨日完成したと報告されたもので、まだ存在さえ知られてない。

お前、なんでこの薬の中身知ってる?」






クスクスと、アズサは笑う。


あんまり刺激しない方がいい、と軽く口を動かすが、アズサは見えているくせに頷かない。




こんなに刺激してしまっては、自分の身が危険になるだけだというのに。


一体、何を考えているんだ?






「あ、あと。お姉さん生理きてるよ?

そしたら犯すこともできないでしょ。

もう少し待てば?」



「は?」





……………は?












ポカンとする私を、坂上もポカンとこちらを見る。



数秒フリーズしたあと、先月の生理がいつだったかをとっさに振り返った。

……確か、1週間前に終わったばかりだった気がする。




今来てるわけがないのだが…。







「……おい。確認しろ」


「(ちょっ!)」






私を取り押さえていた3人があっさりと私のズボンに手を突っ込んで来た。


……一応女なんだから、少しくらい遠慮して欲しかった。

本当に。


女としてのプライド、ズタボロである。

……まぁ、もとから微々たるプライドだけど。









「……本当みたいです」



私のズボンに手を突っ込んだ1人が手を坂上に見せた。


その指には、真っ赤な鮮血が付いている。




それには私も目を見開いた。






…………マジか。










「ね?だからさ、お姉さんが熱下がって生理終わるまではそのおクスリ打つのやめておきなよ」




やっぱりクスクスと笑っているアズサを、坂上は憎々しげに睨みつけた。




と、私の腕から注射器の針が抜かれる。





そう。抜かれた。

抜かれたのだが、これまた状況がさっぱり意味不明なのだ。






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