第55話


〜・〜




乱雑に投げられた。


どこかの廃工場のようなボロさの場所。

地下倉庫らしいその場所に、アズサと一緒に放り込まれた。




「で、どうします?

拷問したところで、声出ない人にどうやって吐かせりゃいいんすかねぇ?」


「それだよな…。ボスも無茶振りだよ…」





はぁ、とリーダーらしき人物が大きくため息をつき、部下に何かを指示した。

指示された数名の部下がこの部屋から出ていく。





何でこうなっているのかもまだよく理解できていない私は、かなり実感が湧いていない。


そして何より。



隣であくびするくらい余裕かましてるアズサのせいで、危機感が全くない。





「(おい、アズサ。

そんな余裕にしてていーのか。

今の状況わかってんのかよ)」


「あぁー。大丈夫大丈夫。

たぶんお姉さんよりわかってるから」


「(本当かよ…)」





不安しかねーわ。






「持ってきました」


「あぁ。どーも」



私が頭を抱えている間に、出ていった部下が何かを持って戻ってきた。


リーダーらしい男はそれを受け取ると、私に近寄ってくる。




「どーもー、改めまして。クロスの第1隊組長、坂上英介(さかがみ えいすけ)でーす。

で、さっそくだけどクスリ漬けにするから」





………なんかもう、頭が考えることを拒否している。


キャパオーバーというか。




………ん?待てよ。


なんか違くないか?




こう、視界はグラグラ揺れてて、体が重くて、怠い…。



…………あ。

私、熱出てたんだった。







今のわからない状況が続いたせいで、自分の現状さえ見えていなかった。


全然まともな思考ができていないと思ったら、そういうことか…。




というかやばい。


明らかにやばいクスリだろう。






リーダーの男──坂上が手にしている注射器の中身は紫。

どう見ても毒々しいその色に、思わず顔がひきつる。




「とりあえず人質に取ったって噂流してきたし、これでおびきだせんだろ。

怪我治って動かれるのも困るし、秋信と往焚ってバケモノなんだろ?

遺伝子操作されてるとかなんとか」




結構詳しく知られているようだ。


かちゃかちゃとクスリを打つ準備をしながら、坂上が話し始める。




それと同時に3人ほどの男が私の両腕や首を抑えつけてくる。


左腕をまくられ、折れた場所を固定していたものも包帯も外される。





「これ、新薬なんだよね。

中身はまぁ麻薬なんだけど。

まだ試したことないから、あんたで実験させてもらうわ。

おびき出せれば、人質なんてただのゴミだしな」





準備が終わったらしい坂上が私の目の前まで来た。


強引に私の左腕を掴む。




もともと折れていた痛みと、強く掴まれる痛みとで激痛が走り思わず顔をしかめる。





「ちょっとばかし普通の麻薬より強くて依存性高いけど。

まぁ、気持ちよくなれるからいいだろ?」


「(………っ、)」





ギッと睨みつけてやると、あー怖い怖いと心にもないことを言われる。




まずいな。





このままいけば、クスリで散々可笑しくされたのちに犯されるのはありありと想像できる。



針が肌にあてられた。






必死で打開策を考えるが、全く浮かんでこない。

焦りばかりが頭を支配する。








坂上の口角が上がった。






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