第52話



パッと視界が明るくなった。

森を抜けたのだ。



入ってきた場所と同じ場所に戻ってきた。





「さて、お姉さん。

俺の勝利条件覚えてる?」


「(………?私が幸せになること?)」


「そう。それなんだけどね…。

続ける?やめる?……お姉さんが選んでよ」


「(…………)」






ほんの少し困ったように、アズサが笑みを作った。私は言っている意味がよくわからず、首を傾げた。




それからアズサは私をそっと近くの木の根元に下ろす。




「(………?)」


「あらら。お姉さん、頭フリーズしてるね」





大丈夫?なんて言いながらアズサが私の額に触れた。


濡れて張り付いた髪を、細い指がすく。





「………お姉さん、1人でできる?って聞いてるんだけど」


「(………あー、なるほど。

…あんた、すげー不器用なのな)」


「え?」






アズサの手がピタリと止まる。


それを見て思わず笑ってしまった。




人のことをバカにしたように弄(もてあそ)ぶくせに、その本質は全く別のものだ。





「(優しーのな、あんた)」


「僕が優しい?

……お姉さん、ついに頭イかれた?」


「(イかれてねーよ。

……私に声かけたのも、こんなゲーム始めたのも、もとから手を貸すつもりで持ちかけてきたんだろ?)」


「…………」


「(何度もゲーム続けるかどうか聴いてくるのは、これがお節介じゃないかが不安なんじゃねーの?

態度でけーくせに、意外に小心つーか繊細っつーか)」


「………僕は、そんな優しい人じゃないよ」


「(……あんたに似たような人がいた)」


「僕に似た人?」


「(そー。…すごく、似てる)」








人を愛することを知らず、人に愛されることを知らず。


それなのに、たった1人を愛してしまった。



どうやって愛していいかわからず。

どうやって愛を伝えればいいかわからず。


どうやって大事にすればいいのかわからず。

どうやって守ればいいかわからず。





結果、世界を丸ごと改変し、これでどうだと見せつけてきた人がいた。





これで私の愛が伝わった?と。






愛する人が大事にしていたものを、人を、

守るために。


全部守ったよ。

あなたの大事なもの、私が守ったよ。



どう?

見て見て、すごいでしょう?




子供のように、そんな無邪気な気持ちで世界を転がした人。






不器用な人だった。









「(死んじまったけどな。

…不器用すぎて、愛する人に愛してるって言いたかっただけなのに、それさえ伝わらないくらいの大掛かりなことして…。


頭いーくせにバカだった人だ)」



「………似てるの?その人。僕に」



「(似てる。

意味わかんねーほど頭良くて、優しーくせに、不器用すぎて伝わんねーの」



「……………」








でも、かっこよくて。


誰もが憧れる人なんじゃないだろうか。





彼女になりたいとは思わない。


でも、自分の心のままに動き、自分の使えるもの全てを駆使して。



それも、愛する人に振り向いて欲しいがために。








可愛い人だった。







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