第49話



「それで、往焚さん」


「(………………⁉︎)」


「あ、それとも璃久さん?

どっちで呼べばいい?」


「(⁉︎⁉︎⁉︎)」





何がどーなってんだよ…。




一言たりとも名前なんて言った覚えはない。

というか話題にさえ出していない。


アズサはにこにこ笑っている。





「どうしたの?お姉さん」


「(………)」





胡散臭い笑顔だ。


底が知れない。

どうせ説明されたところで理解不能なデタラメなんだろうが、一応聞いておこう。




「(………なんでわかった?)」


「何が?」


「(名前だ!一言も言った覚えないんだけど?)」


「うん。お姉さん言ってないと思うよ?

俺聞いてないし」


「(じゃーなんでわかった?)」






そろそろ頭がおかしくなってきそうだ。

どんな頭してりゃわかんだよ。







「不思議なことに、名前に入ってる音って、無意識に意識しちゃうもんなんだよね」


「(は?)」


「例えば、璃久さんの"り"とか"く"とか。

"ゆ"と"き"と"や"は反応薄かったから、偽名の方なんだろうとは思ったけど。


音がわかったところで並び替えは?って質問なら、それも簡単さ。

似たような響きの言葉で反応を見るんだ」


「(言ってることも理屈もさっぱりわかんねーけど、あんたがビックリデタラメスーパー人間って言うことは理解した)」


「えぇ〜、そんなに褒められると照れる〜」


「(褒めてねーよ。一言たりとも褒めてねーよ)」








もう何故わかった?なんて質問をするのはやめよう。


聞くだけ無駄だと悟った。



私も自分の耳にはかなり自信がある方だ。

でも、そんな微々たる音の違いなんて全く気づかなかった。




アズサは相当耳がいいのか…。


ルナのモルモットだったというくらいなのだから、何か特殊な実験がされていたのだろうことは予測できる。




でも、どう見てもアズサは頭の方がずば抜けて特殊だ。



その耳の良さなんかに目が行かないほどに。





「(……あんた、生きにくくねー?)」


「生きにくくたって、生きていけないわけじゃない」


「(生きていけないわけじゃなくても、孤独感とか疎外感とかさ。苦しくなんねー?)」


「ないね。そんなもの感じる必要ないでしょ?

どんなに異質だと思われたって受け入れられなくたって、どうしたって僕は僕なんだ。


僕は僕にしかなれない。

それに、どうせ僕には失うものなんて1つもないんだ。楽しむためなら、命だって駒として使う」


「(………まー、その部分に関しては狂ってると思うぞ)」


「えー。だってそれ以外に楽しみないし。

むしろ安全に楽しむなんて飽きたんだよね。

けっきょく負けゼロ。

そろそろ敗北を知りたい」



「(嫌味なヤローだな)」



「そりゃどうも〜」






へらへらと笑うアズサに、嘘はなさほうだ。


かなり嘘を隠すのも得意そうだが、今話したことはたぶん全部本心だろう。



必要な嘘以外はつかない人な気がする。






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