第47話
「(別に。嘘なんかついてねーよ)」
「そうだね。
半分嘘で、半分本当ってところかな」
「(………………)」
アズサは見すかすような瞳で、自分の膝(ひざ)に肘(ひじ)を立て、頬杖をついてこちらをじっと見つめてくる。
………なるほど。
ゲーム、ね。
元から私がアズサの年齢を当てられるかどうかなどどうでもよかったわけだ。
ようやくゲームの趣旨を理解した。
つまり、これはアズサの1人ゲームなのだ。
1人謎解きだろう。
相手の言動や今この場の現状全てから推理し、暴いていく。
プレイヤーはアズサで、私はゲームカセットの役割。
そして会話がゲーム機器とでも言うべきか。
思わずクスリと笑ってしまった。
どっかの誰かによく似ている。
でもまぁ、そのどっかの誰かはこんなに生き生きと話したり、人の全てをかってに暴いたりするような人ではなかったが…。
いつも嗤って、世界を手玉に取っていたあの人に、よく似ている。
だからわかる。
勝負が始まった時点で、私は負けている。
「(で?私の何が嘘なんだ?)」
「"視線とか、態度とか、次の言葉の響きとかで、たいていはわかる"。だっけ?
これが嘘だね」
「(本当なのは?)」
「お姉さんが、"嘘ついてないのくらいわかる"って言ったことは本当」
ハハッと笑ってしまった。
そんな私を見て、アズサも楽しそうに笑みを浮かべている。
どうやらもう、アズサの方も必要な情報は全て私から得ていたらしい。
つまり、あとは答え合わせだけと言うことだ。
らしくない失態ばかりしてしまったものだ。
完全に油断していた。
何に?
もちろんこの制服姿と、19歳と言う言葉に。
裏社会で動く人間に、20代未満の奴はそうそういない。
20代未満で裏の人間といえば、たいていモルモットだ。上官候補の未成年者が表立って動くことはない。
そのモルモットがようやく1人の駒として使ってもらえるようになるとしても、40代になってようやくといった程度だろう。
だから、目の前の幼さを残した容姿をしたアズサを見て、油断したのだ。
まず第1に、制服を着ているアズサを表社会の人間だと思い込み、警戒しなかった。
第2に、裏社会の人間だったけど今は保護者に養子なり引き取ってもらうなりして生活していると言われ、完全に気を抜いた。
第3に、ゲームをしようと言われた段階で少し警戒したものの、19歳とカミングアウトされてその警戒をやすやすと解いてしまった。
すべて、アズサの思惑通りに。
「(あー。なんかこの敗北感、久々)」
「あらら。
ってか、やっぱお姉さん頭いいじゃん。
こんなに気づくの早い人、あんまりいないよ?」
「(嬉しくねーし、頭良かったらあんたの手にあっさり引っかかったりしねーよ)」
「仕方ない仕方ない。
お姉さん万全じゃないし」
「(万全じゃなくたって色々切り抜けては来てるからな。余計悔しー)」
「あははっ!」
してやったりと笑うアズサを睨んだ。
憎らしいのに、憎めない。
不思議な人だ。
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