第44話



「何?その顔。

僕は別に、死にに来たわけじゃないけど?」





ふわり、と男子高校生が着ていたカーディガンを私に被せた。


濡れてはいるものの、カーディガンには体温が残っている。

冷え切った体がほんわか温かくなった。




それから男子高校生は私の前でしゃがみ、特に何も考えていなそうな表情で口を開く。





「お姉さん。

死にたくてここに来たんじゃないなら、帰ったほうがいいよ」



「……………」





何でそう思う?と口をパクパクと大げさに動かした。


それを読み取った男子高校生は、はぁとため息をついて立ち上がる。





「僕、今ウザい女から追われてるんだよね。

話するのはいいけど、歩きながらでいい?」






私の怪我を考慮してなのか、男子高校生はそっとおんぶをしてくれた。


何とか動かせる左腕でしがみつくと、それを確認した男子高校生が歩き出す。








「アーーーズーーー!!どーーこーー!!!」













「うっわ。お姉さん、ちょっと揺れるけど我慢して」



後ろから女の声がしたあと、嫌そうに顔を歪めて早足に森に踏み入った。




くねくねと道のない道を迷いなく進んでいく。





どうせ聞こえないし見えていないだろうと思いつつ、そんなに闇雲に歩いて大丈夫なのか?と訪ねてみた。







「あー、問題ない問題ない。

この森に頻繁に出入りしてるし。

もう庭みたいなもんだよ」



「……………」





すげーな。









歩いて10分ほどたったところで、見覚えのある大きな木の前まで来た。


前回幸架と来た時は、行きも帰りも30分以上歩いてやっとここにたどり着いたのだ。


それなのに、くねくね歩ってきた今の方が早く着いている。





驚愕に目を見開いていると、男子高校生はその木の根元に座った。

私もそこに降ろされる。






「すごいでしょ?

この木が好きで、よくここにくるんだ。

それにこの木大きいから雨宿りできるし」






上を見上げれば、なるほどと思った。



葉坂になった木は、立派すぎる枝にたっぷりと葉を茂らせていた。



その葉が雨を遮ってくれている。








「で、何だっけ?」


「……………?」


「僕に聞きたいことあったんじゃないの?」


「……………」





あぁ、そうだった。


衝撃がおおすきて、すっかり頭から抜けていた。





パクパクと、再び口を動かす。






「(どーして死にたくて来たんじゃないって思った?)」


「そんな泣きたそうな顔してれば誰でもわかるよ」


「(あんた、誰?)」


「アズサ。新東高の1年だよ」


「(新東高?)」


「そう。裏社会で生まれた戸籍のない子供が表社会の家庭に養子に迎えてもらったり、引き取ってもらったりしたやつが通う高校。


だから年齢はみんなバラバラだし、人数もまだまだ少ない。

設立されて間もないし、不安定な学校さ」



「(へぇー…。

そーいえば如月と木田がそんな企画してるってのを聞いたことあったな)」


「それだと思うよ。

今は実現できるようにサンプル集めってとこかね」


「(なるほど)」






通りで見たことのない制服なわけか。







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