第42話


〜・〜


現在 璃久side






「…………っ、ぃ"っ…」




全身の痛みで目が覚めた。

ピクリとでも動いただけで激痛が走る。



それでもなんとか起き上がると、自分の状態が変わっていることに気づいた。





丁寧に整えられた身なりに、治療された体。

傍(かたわ)らにはライフルバック。


着ている服は重く、すでに装備が全部つけられているのは明白だ。




といっても、両手は折れて使えない。

使える武器は1つもないだろう。


使えるのはせいぜい含み針程度か。





何とかベッドから降りようとしたところで、ベッド脇に杖らしきものが立てかけられているのに気づいた。



手で握って使うタイプではなく、手首と肘に固定して使うタイプのものだ。





ライフルバックを背負った後、それを何とか左腕に装備して立ち上がった。



激痛なんてものじゃないほどの痛みだが、耐えるしかない。


折れていても動かせないわけではない。

だが、腱を切られた方の足はどうしたって動かせないので、引きずるしかない。




折れた足に体重をかけるしかないが、仕方ない。




机の上には痛み止めが置いてあった。

起きた時それは飲んだから、時期に効いてくるはず。







玄関まで何とか体を引きずったところで、思わず苦笑が漏れた。










幸架のやつ…。

逃げてください、ってか。



だったら、最初からこんなことするなよ。














本当は出て行かなくたっていいと思っている。


このまま飼い殺しにされたって、一向に構わない。






でも、それでは幸架は幸せになれない。

それを幸架もわかっているはずだ。









たくさん献身してくれていた。


その言葉の通り、身を削って、命を削って守り、大事にしてくれた。


だから、今度は私が返す番だ。










激痛の走る手を使い、なんとかドアノブをひねって開けた。






引きずるように一歩ずつ進んでいく。








幸架は多分、1週間は帰ってこない。


私を逃がすために。




でもきっと、最長1週間だ。




治療されていたということは、麻酔を打ったということ。

とういうことは、もうすでに一日経過している。





残り6日。


なんて、そこまではない、か。



あの様子では、1週間どころか3日もつかどうかだろう。








なるべく近場で、幸架の手が絶対に届かないような場所…。



ルナと蜘蛛には頼れない。

奏多と凪流、悠も無理だろう。



あの辺は幸架の信頼が厚い。





木田は多分私を信じてくれるだろうが、幸架も真っ先に木田が思い浮かぶだろう。


だから木田も頼れない。








1つだけ、思い当たる一番安全な場所がある。


ただ、自分も無事では済まない。

というか、死ぬ可能性は99% 。














でも、幸架に殺されるよりはいい。

幸架にとっても、私にとっても。










重い体を引きずり、何とか目的の場所まで半日、歩き続けた。






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