第33話




だからこそ、幸架との見解の違いに衝撃を受けた。



2人で必死に生きてきた。

生きるためだけにもがき、いろんなものを捨て、犠牲にしてここまできた。






こんなに一緒にいたのに、私は幸架に好きな人ができたことも知らず、応援したくてもどう応援していいかもわからない。



そもそも恋愛とは応援をして実(みの)るものなのか?








コトリとカップを机に置き、両膝を立てて両腕で抱いた。











「………幸架、行為中ずっと苦しそーな顔してるよな」


「……………」


「あー、違ぇーか。

私といる時ずっと、苦しそーに笑ってるよな」


「それ、は…」


「……………」








チラリと一瞬視線を向ければ、幸架の瞳は揺れていた。








それで、嫌でもわかってしまう。

気付きたくなくても、気づく。












やっぱり幸架は、愛する人の元へ行きたいのだ。

こんな場所ではなく。



愛する人の元に。













でも、私といた時間の方が圧倒的に長くて、離れるには情を持ちすぎて。



離れるに、離れられなくなってしまっているのだろう。



ただでさて心配性なのだ。










私をここまで大事にする幸架のことだ。

好きな人に対してはもっと過保護に違いない。


そしてもっと、大事に、大切に、愛しているのだろう。



だったら、私が幸架にできることはたった1つしかない。









「幸架」


「………はい」


「1ヶ月したら、出てく」


「は……?」


「幸架はここ使ってもいーし、別な場所使ってもいーし、好きにしろよ」


「何、言って、」


「だから、」












先に言われるのは嫌だ。


拒絶されたくない。

嫌われたくない。





幸架のためといいながら、私はズルいのだ。








それに、幸架は優しすぎるから。

私が突き放さなければ、私の元に居続けてしまうだろう。






自分から私のもとを離れて行ったりなんて、できない人だから。








だから、…。













「離れよーぜ。

これからは、お互い別の道進んでこーよ」






















これが、正しい。




















「なんっ、でっ!急に、」


「急じゃねーだろ」


「でもっ、」


「なぁー、幸架」


「…………っ…」


「………幸架だって、ずっと考えてただろ?」








すぐには、互いに心を決められないから。



あっさり離れるには、この20年が長すぎて。








だから、1ヶ月。



1ヶ月間、いつものように過ごして、

終わりにしよう。












もう、幸架を離してあげなきゃ。















幸架の愛する人に、渡してあげなきゃいけないから。














「そんな急に言われたことを、俺に納得しろって言うんですか」


「そーだ」


「受け入れろと?」


「そー」


「………っ、そんなのっ、

無理に決まってるだろ…っ!」








突然肩を強く押され、押し倒された。

ココアのカップが割れ、中身が飛び散る。


両手首も、幸架の両手で掴まれた。







少し伸びた赤毛のせいなのか、幸架が下を向いているせいなのか。

幸架の表情は見えない。










「……納得できないし、受け入れられません」


「…………じゃー、どーすりゃわかってくれるわけ?」


「………っ、

……何言っても、考えは変わりませんか?」


「変わんねーよ」


「…………っ」









ふっと、幸架が私を見た。





思わず目を見開く。












いつも優しかった瞳に、



闇が、沈んでいた。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る