第34話




「………考え直す可能性は?」


「……ねーな」


「本当に、ないですか?」


「ねーよ」


「………っ…」


「……………」







ぐっと痛いほど手首を握られる。


幸架の瞳には今、私なんて映っていない。





何も映さず、何も見ず、何も受けつけていない。





私の手首を握る力がどんどん強くなっていく。


あまりにもその力が強すぎて、思わず顔を歪めた。







「幸架、ちょ、落ち着、」


「最後の確認です。

………本当に、考えを変えるつもりは、ないんですね?」


「………ねーよ」


「……………」







幸架の肩が、小さく揺れた。

それは、悲しみや辛さからの揺れではない。




幸架の表情を見れば、わかる。


















フッ、と、




















幸架が、
























嗤ったから。





















「………わかりました」


「…さ、……ち、か?どーし、」






















何が起きたのか、わからない。























ただ、1つ、わかったのは、





















部屋中に響いているのが、






















自分の悲鳴だということだった。


























ここは防音。


いつ襲撃が来ても、近隣の迷惑にならないように。

大事な話を、盗み聞きされないように。


防音に、なっている。











つまり、













助けは、来ない。




















「そんなにどこかに行きたい理由があるんですか?」


「さ、…ちっ、ぅあ"っ!」


「俺が鬱陶しかったなら、もっと早く言ってくれればよかったのに」


「待っ、……あ"あ"あ"あ"あ"ぁぁぁっ!!」


「ねぇ、璃久」








現状が、理解できない。



何が起こってる?




何を、されてる?









どうして…。














「そんなに、俺から逃げたい?」























耳元で響く幸架の声は、


その瞳より、



深い黒に染まっていた。






















そして、1つだけ理解できたのは…。









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