第29話




研ぎ澄ませていた感覚も元に戻った。

そろそろ、帰るか。







立ち上がり、撤収作業を始めた。


ライフルの解体と、ここにいたことの証拠隠滅。30分ほどで終わる。





最終確認をして、その場を立ち去った。






帰り道は人通りの多い場所を選ぶ。

万が一後ろをつけられていた場合、人混みや一般人に紛れれば、相手も派手な動きはできない。




と言っても、私の狙撃場所を特定してきた人はいまだかつていないのだけれど。






今日だって、北区にある高層ビルから南区の路地に向かっての狙撃だ。

バレるわけがない。





「……………ただいま」





今日は幸架も仕事でいない。


内側から鍵をかけ、ライフルを棚に戻した。

袖に一本のナイフを残し、装備がつけられているパーカーを脱ぎ、ソファーの背もたれにかけた。



銃一丁だけ持って寝室に行き、それを傍らに置いてからベッドにダイブする。





まだ14時。

幸架が帰って来るのは早くても18時ごろだろう。




むくりと起き上がり、シャワーを浴びに行く。


服と男装で身につけていたものを脱ぎ、ピアスを外して浴室に入る。






熱めのシャワーを頭から浴びた。


鏡に映る自分は、やはり女性らしい体つき。

鏡に映る自分の体の線を、指でなぞった。






以前より丸みのある体になった。

いつ誤魔化せなくなるか…。




「………………」






幸架に、異性だと思われたくない。


一緒にいたい。

できるだけ、長く側に…。




兄妹や姉弟で、異性として意識し合う人たちは少ない。

家族なら、異性として見られることは、ない。




そうすれば幸架が、彼が好きな人の元へ行ったときだって、まだ側にいられる可能性は残れる。



私と幸架が異性として側にいるのではないと分かれば、幸架の相手だって納得するだろう。


私が、女としての振る舞いをしなければいい。





もとから女らしさなどない自分だ。

この体さえ、女らしさを強調して来なければ、他に問題はないはずだ。






「…………ハッ。体さえって、…。

それが一番の問題なんじゃねーか」







声も高い。

胸も割とある方だ。


筋肉量はあるものの、一般女性より骨が細身らしく、華奢な体。



服にライフルを隠している分、普段はまだガタイ良く見えているものの。


この部屋に戻ってきたときにライフルを隠し持つ意味はないわけで。




「………………」




幸架が私を異性として見ていることは、知っている。

女なのだから気をつけろと、そう言われることだって度々(たびたび)ある。





………ずっと一緒なんて、無理、か






どうしたって私は女だ。

それに、たとえ幸架と異性同士の関係がはっきりしたとして、どうするというんだ?



幸架には好きな人がいる。

私は幸架をそういう好きの対象で見てはいない。というより、見れない。


お互いに恋愛対象として見れるわけじゃないのに、ずっと一緒にいられるわけはない。





というか恋愛そのものがわからない。

そもそも必要なものなのか?







生き抜くために必要なことなら、なんでもする。殺しだって騙しだって誘惑だって、この女の体を使えるだけ使うことだって躊躇(ためら)わない。





でも、恋愛はそうじゃない。








幸架と離れたくないと思うのは、私の身勝手な思いだ。



ずっと一緒にいたから、それにすがっている。







ずっと一緒にあるものが、いたものが、


突然消えてしまうことほど怖いものはないから。






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