第28話



男に比べれば、華奢で細く、小さい手。

ライフルや銃を使うためか、胝(たこ)がある。



普通の女性に比べれば、ナイフや銃を使う分ゴツいのだろうが…





体だって、細身の幸架より細く、曲線がある。



鍛えている分まだ硬さはあるが、それでも女である以上限界があるのだ。






「…………はぁー…」







15歳あたりから、幸架と体格に差がつくようになった。

肩幅が増し、声が低くなって線が太くなった幸架に対し、自分は…。




男装をしていても、いつか誤魔化せなくなるだろう。





そうすれば、女として心配しなければならないことが増える。

女としての心配が増えるということは、過保護な幸架が余計に心配をするようになる。



そろそろ、別な仕事を探すべきなのだろうか。






情報関係は得意なわけではないが、人並みより少し上程度には扱(あつか)える。

参謀には向いていないが、経験からの助言なら多少はできるはずだ。



情報網だって結構あるし、情報屋として動いてもいい。










でも。











私が得意なのは、それではない。


私が私として一番役に立てるのは、やはりこの目と耳なのだ。


それを使うとなれば、狙撃や密偵の方が向いている。






しかし、現場に居続けるには、女の身では…。








「…………はぁー…。性別変えるか」










なんて思いたくなるほど、最近の悩みはもっぱらこれである。



最近の仕事は狙撃が多い。

まぁ、殺しより援護(えんご)の方が多いから、まだ気楽に仕事を引き受けられている。




でも、これからは殺しの依頼も来るだろう。

そうなればやはり接近戦だってある。


体格差のある相手に対する戦闘の仕方もある程度は知ってはいるし、できる。




それでも相手もプロだ。

体重や筋肉量で負ける自分は、どんなに工夫しても限度がある。






以前本気で男になろうとしたら、幸架はもちろん、当時一緒にルナで仕事をしていた人たち全員に止められた。


今の性別で支障が出ているのだから、変えるのは自分のかってだろうと言えば、そういう問題じゃないと言われる始末だ。



私が私の体をどうしようとかってだろうと怒れば、なぜわからない⁉︎と逆に怒られた。





これならいっそ、最初から男として生まれて来たかったところだ。








でももうすでに生まれてきた性別は変わらないわけで。








「………はぁー…」











上を仰ぎぼんやりと雲を眺めた。


どこに向かえばいいのか、

何を目標にすればいいのか、

今いる道がちゃんと正しいものであるのか。







何も見えない。


湊の背中ばかり追いかけてきた。

その背中がなくなった今、歩いている道どころか、足元さえ見えない。



いかに湊頼りだったかがわかる。








ゆっくりと目を閉じた。


微風だが、ゆるりとした空気の流れを感じる。

人の声、草の揺れる音、地面を踏む音、

機械音、鳥の声…。






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