2、ダンシング玉入れ

第26話


〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜


東区桜祭り 3週間前






「………っ、本当、もう、無理…

マジふざけんなよ、あいつ」









けっきょく1週間と4日、動けなかった。


一回あの世逝けよ、あいつ…。

こっちは本気で花畑見えたわ








恨みがましくつらつらと独り言を呟きながら、シャワーを浴びてリビングへ行った。




いまだ出血の止まっていない場所にガーゼや包帯、絆創膏で処置をし、痣になっている首元をネックオーマーで隠す。


そろそろ暑くなる季節だ。

ネックオーマーをつけているのも不自然になるだろう。





しかたない。

今度、ストールを買いに行くか…。








はぁーーーーー……と盛大にため息をついた。










そこで、ひょっこりと視界にあいつの顔が視界に映る。

ようやく動けるようになった姿を見て笑いやがっているのだ。





思わず顔がひきつる。

嫌な、予感…。








「……あ、っと、ちょっと出かけてくヴッ」










とっさに逃げようとして瞬間、着ていた部屋着のフードを思いっきり掴んで引かれた。



おかげさまで首が絞まったぜ。


おかげさまでな!





………最悪だ。








「ゴッホッ……」



恨みがましく睨むと、やっぱり満足げな顔を浮かべられる。






「も、…もう、何?今度は何?」


「香水」


「は、い?」







言いたいことの趣旨がわからず、思わず顔をしかめた。


そこで、ゆっくりと指さされた方向を目で辿る。






指さされているのは、寝室だった。


やっぱりよくわからず、思わず30秒ほどフリーズしたまま寝室のドアを見つめる。










…………と、そこで気づいてしまった。


1週間と4日前。

着ていた服に、香水の匂いがまだ、残っている。






というかさぁ。






………そんなの当たり前だろうがぁぁぁぁ!!!!




お前ぇぇぇぇ!

洗濯する暇なんて与えてなれなかったくせ

にー‼︎‼︎‼︎‼︎






「……洗濯してくる」


「必要ない」


「いやいや、大いに必要でしょ。

というか、今洗濯して部屋をファブリーズしなきゃ殺される予感しかしない」


「なら、」









グッと体が浮き、そのまま寝室に入ってベッドに落とされる。



上に覆いかぶさってきたこいつの笑みは、本気だ。





「……殺す」






精一杯の笑顔を向けて答えてみせるが、思わず青ざめる。


これはきっと、回避不可なのだろう。





なぜなら、この寝室に入った時点で香水のキツイ匂いがするのだから。









「………お、落ち着こう。

そう。平静を保つってすごく大事なことだと思うんだ」


「へぇ…」


「ほら、得意だろう?

ポーカーフェイス」


「……………」


「………というか、別に悪いことしてない」


「……………」


「…………いや、本当に。

何もやましいことないから」










必死の弁解も、何の効力も発揮せず。


首元に寄せられた唇が肌を這う。





「………っ、ちょっ、と!いい加減にっんぅ」






いい加減にしろ、と言おうとして口に指が侵入してくる。




そのまま着ていた服はあっさりと脱がされ、フードについていた紐で手首をベッドに固定された。


つけたばかりのガーゼと包帯まで剥がされ、まだ出血しているそこを思いっきり掴まれる。





「んぃ"っ!」






もやは日本語の発音ではない何かが口から出てきた。


んぃ"って何だよ。何語だよ。

というかどこの言語にもそんなのないわ。







というか。







………いや、いやいや、いやいやいや!!!!


おかしいだろ!

いや、本当におかしいだろ!











「ちょっ」


「何人?」


「は…?」


「この香水。一人分じゃ、」




ないよな?


耳元で響く、静かな怒り。










「…………っ、……し、知らない。

そんなのいちいち数えたりしない………あ」



「へぇ…」








にぃ、と歪んだ笑みを浮かべ、首に手をかけられる。

数えられないほどの人数、ねぇ…という顔だ。



ネックオーマーは床に落ちていた。

どうやって、いつの間に外したんだと思って視線を向ければ、ズタズタに切り裂かれていた。



うーわ…

マジで本気だわ。こいつ









グッと、首にかけられた手に力が込められた。











「ぅ……ぁ…」



いつの間にやら足まで固定され、苦しいのにもがくことさえできない。






そんな姿を見ながら、


こいつは満足げに笑っていた。











あーあ。

これはまた…。


しばらく監禁生活か。






意識を手放す直前。


そんなことを考えた。










〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜






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