第25話



〜・〜




「あー、疲れたー」




ボフン、とベッドに突っ伏した。


私に続き、幸架も寝室に入ってくる。





「すみません。手間をかけさせてしまって」


「んなの今更だろー。

つーか、苦労するよなー。顔綺麗なのもさ」


「………そう、ですかね。

璃久さんも、俺の顔綺麗だって思いますか?」


「思う思う。ってか、幸架の基準おかしーから」


「おかしい?」


「だって、幸架の綺麗な基準は湊さんだろ?

無理無理。あんな人滅多にいねーよ」


「あはは…。確かに」







あの人は、変装していても綺麗だった。


自分の色である漆黒に飲まれることなく、むしろそれを自ら纏っていたような人だ。




老若男女関係なく100人いれば100人…

いや、別室からもう1000人はなだれ込んできてその全員が彼を求めるだろう。


そのくらい、綺麗で惹かれる人だった。






本人はその容姿を嫌っていたようではあるが…。








さすが兄弟というべきか、幸架も綺麗な顔をしている。


たれ目気味ではあるが、間近で見なければたれ目なら見えない二重の瞳。

綺麗に燃える赤毛の髪に、いつも優しく微笑む唇。





相手を誘惑する時なんて、もう絶句するほど色気ダダ漏れなのだ。







残念ながら、私は色仕掛けが苦手である。

どうしたって色気が出ない。


いつも苦戦しっぱなしだ。







「あーあ。色気欲しー」


「え」


「つーかホント、羨ましーわー」


「え…え?璃久さん?」


「いーろーけーほーしーいー」


「ちょっ!何大声で言ってるんですか!」


「色仕掛けがうまく行かなすぎて、仕事に支障出てんだからしかたねーだろ」


「え。…………えぇー…」








昨日もそうだ。


蜘蛛の手伝いで、薬の密売人をあぶり出すのに、関係者にハニートラップを仕掛けた。



なかなか堕ちない相手のおかげで散々手間どり、やっと墜とせたと思ったら何故か一緒に組んでいた組員3名が突入してきたのだ。


しかも何故か、大丈夫ですか⁉︎なんて心配までされて。





というか、最初から突撃できたなら、ハ二トラなんてさせるなっ!

と、心で叫びつつ報酬をもらい、帰ってきた。









「はぁ…。

まぁ、やったことないやつに比べればハニトラだってまだできるほーだけどさ。

湊さんとか幸架みてーにはぜんっぜんダメだわ」


「…璃久、さん。それは違います。逆ですよ」


「は?何が?」


「………今後、ハニートラップ系の仕事はお断りした方がいいです」


「ま、そーだな。

苦手なこと引き受けてもなー…。

それより、この耳とか目を生かせる仕事増やすか」








よっと起き上がり、幸架の方を向いた。


幸架は、困ったように笑っている。








「どした?」



「………いえ。なんでも、ありません」.



「………そーか」










こういう時、幸架は絶対何かを隠している。

でも、私はわかっていて聞かない。






これが、私と幸架の距離感。







一緒にいるための、






私たちを守る一線なのだ。







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