第20話



開理とともに部屋を出ると、目を赤くした凪流と悠、2人に寄り添う奏多がいた。


私たちが出てきたことに気づくと、奏多は申訳なさそうな顔をした。



「すまんな」


「何がです?」


「ちゃんと覚悟してきたつもりだったんだけ

ど……こんな取り乱しちゃって」


「いえいえ…。

むしろ、泣いて惜しんでくれる人がいるなら、あの2人もきっと喜びますよ」



その言葉には私は首を傾げた。



「そーかー?

あの2人なら絶対鼻で笑いそーじゃね?」


「「……………あぁ…」」



私のその一言に、数秒考えたのち開理と幸架が思わずといった感じに声を出した。


その様子を見て、私と奏多は笑った。




もし湊なら、私達を無言で見つめて笑うだろう。

バカか?、と。



ゼロならきっと、悪態の1つでもつくだろうか。






──あーあー、なんて顔してんの?

そんな暇があるなら、もっとやるべきことやれば?

そんなだからいつまでたっても無能バカで一歩どころか1万歩も遅れをとるんだよ





もちろん、鬱陶(うっとう)しそうな顔でそういうのだ。


ありありと浮かんで来そうなその表情に、思わず苦笑した。








「開理さん」


「何だ?」


「………2人の死因は、何だったんですか?」


「…………それなんだよなぁ」



ふと、幸架と開理の会話が耳に入ってきた。


開理は木田に、全員お別れが終わったようだと伝えて戻ってきたところだった。

ちょうど、木田も戻ってくる。



「あの2人の体からは、何の毒物も外傷もなかった。裸足だったけど、足に傷もなかったんだ」


「誰かが運んできたって言うことでしょうか?」


「あんな森にか?

靴跡もなかったし、それは考えられねーだろ」


「ですよね…」



外傷も毒物の検出もなし、か。

となれば…。





「とりあえず調べられるだけ調べたんだけどな。

内臓にも問題はないし、血液も皮膚もその他諸々調べたけど、何にも異常はなかった。

……ただ、心臓が止まっている。

それだけだった」



「…………そう、ですか」


「まー、……あの2人、簡単に死ねる体じゃなかったしな。

そういう薬とか作っててもおかしくねーか」


「私もも、そんな気がします」







開理が苦しげに微笑んだ。




息子が死んだのだ。

苦しくないはずがない。






でも、血の繋がりを強く感じることがなかった私達実験体は、その気持ちを理解することはできない。




だから、木田や開理が親としての表情をするとき、私たちはいつも戸惑うのだ。









「………私も璃久さんも明日仕事が入っているので、火葬と埋葬は行けません。

だから、2人をよろしくお願いしますね」



「………あぁ。わかってる」







どことなく浮かばない表情で、木田がそう言った。











誰にも見えない位置。

通路の曲がり角に、如月が立っているのを、私だけが知っていた。



やるせなさそうに、

でもこれでよかったのだと自分に言い聞かせるように、



自らの拳をぎゅっと握って、





嗚咽を噛み殺している音を、









私だけが、聴いていた。








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