第18話




「……私は私の中の記録を使って、私なりに世界と向き合ってみようと思います。


悪魔さん。

誰よりも長く一緒に過ごしたはずなのに、あなたのことを何も理解することができませんでした。…ごめんなさい


ジュンさん。

今度こそ、その手を離さないでくださいね」







最後に2人の手をギュッと握ると、悠は後ろに下がった。



そのまま泣きじゃくる凪流と、凪流を支える奏多と共に退出する。



「………俺も出る。

楽生、終わったら呼べ」


「わかった」



木田もそのままこの部屋を出て行った。

この冷気で、失った左目が痛むのだろう。







「………よっ、湊さん、ゼロ」



私はいつも通り2人に呼びかけた。


いつも通り呼びかけたのに、

いつも通りの返事は返ってこない。





もちろん、当たり前だ。








そっと2人の手に触れると、ひんやりと冷たかった。



発見時は、まだ温かかったのに。



それに、最後に湊と会話をした時も、抱きしめてくれた腕はとても温かかった。






「……2人とも、お疲れさん」






世界を救った、犯罪者。


決して善ではない。

数え切れない犠牲を生み出したことに、違いはないのだから。




それなのに、私たちはこの2人を悪と断言することができない。


私達だけでなく、全貌が昨日公表された瞬間から、誰も彼らを悪だと断言出来ずにいる。








そんな人間を見たら、やっぱり2人は笑うのだろう。



バカが、と。













「………すげーな、2人とも。

私たちなんて、ぜんっぜん追いつけねーわ」







人間を騙し、親しいものを騙し、

愛するものを騙し、その手を離した。


さらに、自分の想いまで騙して、

全てを成し遂げた。





たった1つの想いを、叶えるために。











「私さ、何であんたらに追いつけねーんだろって、ずっと思ってたんだ」








技術も知能も、言動全て、私たちはいつも1歩や2歩程度ではなく、大きく遅れをとっていた。





どんなに知識を身につけても、経験を重ねても、追いつけない。


遺伝子操作されて生まれてきたのだから、特化してるものが違う。

だから追いつけないのだと、諦めていた。






でも、それはきっと違うのだ。











「………あんたら2人は、すごいよ。

ホントに。

………私たちは自分の見える世界だけしか見てなかったっていうのに、、あんたらは、この世界全部を見てたんだな」










自分の見える世界だけじゃない。


誰かが見ていて、見えていない世界も、

その瞳で見つめていた。








何故なら、

それが彼らの願いだったのだから。













全ての人が、もっと生きていたいと望める世界を。


愛する人を受け入れてくれるような、世界を。


自分の考えや生き方を歩める世界を。






ゆがんだ教育も、負の連鎖が続く教育も、

全てがこの世界から邪魔だ。











誰かに教えられたからではなく、

お前自身はどう思う?




私たちは、誰にも抑えられなかった愛を、

こうやって表現してみせた。


誰に教えられることもなく正義を実行してみたのである。



さぁ、人間。

お前らが作った"道具"が実現して見せたこの正義を、お前らはどう考える?









そう、世界に疑問を投げかけた。


















全ての人が、強大な悪を前に"正義"について考えた。


犯罪を犯し、人をたくさん殺した2人を見て世界はいまだ、答えの出ない疑問を抱いている。












彼らは悪だけだったのか?








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