第15話
「俺は籬開理(まがきかいり)」
「なっ!ちょっ!おい!」
「籬様…」
「開理でいい」
「はいっ、開理様!」
「お前ぇぇぇぇぇ!!」
木田がクスクスと笑う。
………確実に遊んでやがる。
木田のクスクスと笑う口元に添えられた左手には、その薬指に指輪がはめられていた。
以前はなかったそれに、私はほんの少し自分の口が緩むのがわかる。
木田の左目には、大きな包帯がされている。
一応義眼代わりのものは入れているらしい。
からっぽのままにしておくのは良くないのだとか。
開理は元気そうだった。
ほんの少し痩せた気もするが、急激な変化は見た感じなさそうである。
「えっと、凪流ちゃん?」
「はいっ!楽生様!」
「さ、様…。
こいつの名前は木田誠だ。
籬開理は、俺の本名だよ」
「え?では、楽生様が開理様で、このお方は誠様ですか?」
「「ブフッ」」
「あはははははははっ!誠様!
あっはははははははははっ!」
「…………何笑ってんだよお前ら」
思わず噴いた開理と幸架。
笑いの止まらない私。
誠様とかっ!
めっちゃ似合わない!
超ウケるー!
誠様(笑)
「おい、いつまで笑ってんだよ」
「だっ、誠様ってっ!………フフッ」
「………お前ら笑ってるけどな、俺は日常でもそうやって呼ばれてるからな?」
「マジか!真面目な顔して誠様とか呼ばれてんの?
…………ブフッ!似合わなっ!
あははははははははははっ!!!」
「…………璃久」
取引先等でこいつが"誠様"、なんて真面目に呼ばれているのかと思うと、余計に笑いが止まらなかった。
どう考えても"様"なんて似合わない。
本当にウケる。
というか止まらない。
「誠様!
髪とお肌の手入れ方法を教えてください!
そしてその美しい肉体の維持も!」
「はぁ?」
木田が意味わからん、と顔を歪めた。
そんな木田を、凪流はキラキラとした表情で見つめている。
開理と幸架、悠はもう傍観に徹している。
私は相変わらずの誠様呼びに笑い続ける。
そして凪流の恋人である奏多は、耳を塞ぎながら発狂していた。
「……………あぁ」
またもや、木田がニヤリと笑った。
それを見て幸架と開理の表情が固まる。
「お前、凪流って言ったか?」
「はいっ!」
元気に返事をする凪流に、クスリと笑うと、木田は凪流の顎に手をかけた。
そのままグッと顎を持ち上げ、凪流と視線を合わせる。
凪流は、真っ赤な顔をして視線を彷徨わせた。
「えっ……えっ?え?」
「凪流」
「は、はいっ!」
「お前は若いんだからそのまんまで十分綺麗だろ。
で、その若さで男の1人や2人、堕としてみせろよ」
「…………っ…!」
キャパオーバーになったらしい凪流が、そのまま倒れた。
「なっ、凪流ー!」
慌てて奏多が抱きとめるが…。
凪流は、鼻血を出しながら、それでもなお興奮していた。
「い………イケメン………最っ高ッ!」
「お前……残念すぎるよ、ほんと…
人間としても、俺の彼女としても…」
奏多よ。
お疲れサン。
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