第13話




車を走らせること1時間。


私たちが住む街の隣県にできた、新しい蜘蛛本部に到着した。


車から出て空を仰ぐと、真っ青な空が広がっている。



「璃久さん?行きますよ?」


「あー、悪りー」



私が立ち止まったことに気づいた幸架が待っていてくれていた。




目の前には巨大なビル。

35階建てで、今日行くのは25階。


中に入ってすぐ、幸架が受付に要件を告げに行った。






それを4人で黙って待つ。






受付のお姉さんが、頰を染めながら幸架と話している。

幸架は、それに笑顔で受け答えをしていた。




「……ねっねっ!璃久さん」


「なんだ?」


「璃久さんって、やっぱり幸架さんのこと好きなの?」


「ちょっ!凪流!やめろよ」


「えー?いいじゃんべつにー」




幸架に聞こえないようにするためなのか、小さめの声で凪流が話しかけて来た。




幸架が好きかどうか?

好きに決まってる。

ずっと一緒にいたのに、嫌いなはずがない。


嫌ならもうとっくに離れているところだ。



私の性格上、合わない人とずっと一緒にいる、なんてことは絶対にしない。



というかそもそも、家族同然の幸架を嫌いになるわけがない。



「好きだけど?」


「えっ!どの辺が好きなの??」


「おい…凪流…」


「どの辺って…。

家族なんだから、好きも嫌いもねーだろ」


「え?家族?」


「そー、家族。

物心つく前からずっと一緒にいたって言っただろ。もー家族だよ、あいつは」




チラリと幸架に視線を移せば、グイグイ口説いてくる受付のお姉さんに辟易(へきえき)としはじめていた。




うまくかわせばいいものを、優しすぎるせいで丁寧に断り続けている。






複雑そうな表情をしている凪流は、私をじっと見ていた。


何も言ってくる気配がないので、とりあえず幸架をフォローしに行くことを優先することにする。



受付に近寄った。




「秋信。なんかトラブル?」


「あ、往焚さん」



幸架は困った顔で私の方を振り向いた。

それを見て受付のお姉さんがおずおずと私に話しかける。



「あ………お連れ様ですよね?

すみません、引き止めてしまって…」


「別に。もー通っていー?」


「は、はい」


「秋信、行くぞ」


「はい」


「あ……あ、秋信さん!待ってください!」




私が幸架の袖を引っ張って歩き出したところで、受付のお姉さんが慌てて幸架を引き止めて来た。



ぽっと頰を染め、どう言葉を切り出すか考えているようだ。


それを見て、幸架がまた困ったような表情をする。



こういう時、だいたい私がしなきゃいけない行動は1つだ。




「あ、あの……あ、秋信さん。

よ、よかったら、お時間があるときに…」


「おねーさん」


「え?」


「こいつ、私のだから」


「え…」


「…………秋信、行くぞ」




幸架の腕に腕を絡ませ、そのまま待っている3人の元に向かった。


すみません…と、幸架が私に小声で言う。




ちらりと幸架を見ると、

口元は微笑んでいるのに、



瞳を暗く伏せていた。







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