第12話



「あ、私は斎藤幸架(さいとう さちか)です。

秋信(あきの)は偽名ですので、幸架と呼んでください」



「おー!名前までイケメン!」


「凪流…

お前、もうちょい口にチャックしとけ」


「えー!なんでー!」





あはは、と幸架は苦笑いをした。

私も思わず苦笑が漏れる。





名前がイケメンって…






「今日は、突然連絡してしまったのに来てくださって、ありがとうございます」



「いやいや!そんなことねぇよ。

………驚いたけどな」



「そうですね…。

まさか、亡くなったとは思いませんでした…。

それに、むしろ裏社会との接点がなかったので教えてくださって感謝しています」




私たちは奏多から連絡先をもらっていたので、幸架が奏多に2人が亡くなったことを電話した。





その時、3人は会社終わりだったらしく、一緒にいたらしい。

電話越しに、凪流の泣く声が聞こえてきていたとか。




どうして?なんで?と。




今は3人とも落ち着いているようだが、凪流と悠の目元は赤い。


今日も泣いて来たのだろうか。





奏多も気丈に振る舞ってはいるが、その胸中では色んな思いが渦巻いているだろう。




「……幸架。今日は木田もいるのか?」


「はい。でも、1週間後には戻るそうです」


「だよな。

もともと忙しい時間の合間に戻って来てただけだったみたいだし」


「………寂しいですか?」




ちらりと幸架に視線を向ける。

まっすぐ前を見ているが、私を気遣ってくれていることが伝わってくる。


そんな彼の優しさに、ふと口元が緩んだ。




「大丈夫大丈夫。

だって誰がどこに行ったって、

幸架はずっと一緒にいんだろ?」


「…………はい」




ふわり、幸架が笑った。



でもその笑みは、

どこか苦しそうだった。






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