第39話



「往焚さん」





足音共に呼びかけられた。

来るかもしれないとは思っていたが、やっぱりきたか。



「……秋信」


「2時間後に帰るって言われてたのに帰ってこないから迎えにきましたよ」



4人の後ろに秋信が立ち止まる。

4人がかなり動揺している。




「あっ、秋信さん⁉︎千春ちゃんと深春ちゃんは…」


「あぁ、あの2人なら置いてきました」


「お、置いてきたって…」




幸架がにっこり笑った。

これは…怒ってるな。




幸架は4人を横切って俺の目の前にきた。

すうっと目を細めて俺の首に触れる。




「何かされました?」


「別に、特には。

つーか、遅くなったのは謝るけど迎えに来なくても…」


「湊さん、待たせるつもりですか?」


「……悪りー」


「いえ。…あと、これは誰が?」




秋信は俺の首に触れるのをやめない。

こいつが恐ろしいことは、俺が1番よくわかっていた。




そして、"努力して"得た知識で"苦手な"情報収集をかっては出てくれていることも。



それが、俺らが自分を守るためのカモフラージュであることも。





「……申し訳ありませんが、お二人とも私たちについていていただけませんか?」




澤部の声と共にザザザッと、隠れていた約30人が俺たちを取り囲む。


こいつらが一体何であるかも、何のためにこんなことをしているのかも、湊さんはきっと知っていた。



知っていてここにきたのは、あの女に関わっているからだろう。




そして、俺たちを連れてきたのは。



信頼されているからだ。


ここで信頼を失うわけにはいかない。





「…秋信」


「何ですか?」


「……いつもごめん」


「何言ってるんですか。先輩についていくのが後輩ですよ」


「いつも思うけど、お前が後輩とか…ありえねーよ」


「ハッキングも勉強も、俺に教えてくれたのはあなたですよ」




俺の首から手を離し、幸架がにっこりと笑った。


幸架の首に触れた。

肌の色に同化しているそのチョーカーには仕掛けがある。



カチリ、と音を立ててそれが外れた。


俺は無名組織壊滅の時に、足を負傷した。

今はもう完全に治っているが、しばらく支えなしでは歩けなかったせいで幸架は過度に俺を心配するようになった。




その状況で、さっき大地に胸ぐらを掴み上げられた跡が首に残っている。


これは…絶対後でお説教される…





「往焚さん」




顔を上げれば、にっこりと笑いながらチラッと大地を睨む幸架。



こんな状況で笑ってられるのは、湊さんとこいつくらいだろうな、と思った。



そして、大地が俺を掴み上げたとバレたのがわかる。








「……殺すなよ」









幸架が笑った。



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