第38話



「私たちは情報収集しにきたのよ!

まだ目的の情報屋にも会えてないのに何帰ろうとしてんのよ!」


「まぁまぁ、るみさん。落ち着いてください。

往焚君、お邪魔してしまって申し訳ありませんでした。

私と蒼さんは戻りますから、3人は続けてお願いしますね」



澤部がおっとりとした様子で俺に話しかける。

こちらに不信感を持たせたくないのだろうなと思う。


「えー。俺帰っちゃダメなわけ?」


「当たり前だろ!ふざけてんのか?」




大地が俺の胸ぐらを掴み上げる。

軽々と持ち上げられ、足が浮いた。



少し苦しい。




「ちょっ、苦しーんだけど?」


「だったらちゃんとしろよ!

お前も協力者なんだろ?」


「は?違ーよ」


「は……?」




大地の腕を手でつかみ、そのまま爪を立てた。

爪が食い込んだところから皮膚が裂ける。


顔を歪めた大地は俺から手を離した。




「お前らに手を貸してやってんのは湊さん。

俺らはかってについてきただけ」



乱れた服を直しながら時計を見る。



本部を出て2時間ちょっとになっている。

思った以上に帰るのが遅くなってしまいそうだ。



「俺が1番バカだから捕まえやすいと思ったんだろ?」


「なっ…そんなわけねぇだろ!

だいたい、お前なんて捕まえて何を得するんだ!」


「残念ながらそれはわからない。

でもさー、こんなにギラギラした目であちこちから見られてたらわかるよなー」




細い裏道や店の屋上に視線を向ける。

目が合った瞬間に体をサッと隠す影が見えた。



下手くそにもほどがあんだろ。





「もう一回言うけど、俺は用事が終わったから帰りたいわけ。

澤部サンと蒼チャンは湊さん探しにきたんだろ?

さっさと行けば?」


「な、何を言っているのですか?

私たちはカフェの情報屋に、」


「あそこの店、もう閉店してんだろ」


「は…い……?」




数はざっと30人か。

きついな。


周りに目を走らせながら、前方への注意も怠らないようにした。



ポケットに入っている催眠ガスをぶちまけてもいいが、屋上にいるやつらには届かないだろう。



追いつかれるのは時間の問題か。





「オープンになってたし電気も付いてたし、店も綺麗だったけどー。

カウンター隠すように俺の前に立ってたよなぁー?大地クン」


「な、何を言ってる?」


「どうせ店員いないの誤魔化してたんだろ。

いらっしゃいませって声がねー時点で見なくてもわかる」




ぐうの音も出ない彼らに付き合ってる時間は本気でない。

早く帰らなければ、置いていかれるかもしれない。




俺が1番役立たずだ。

頭のいい幸架。

頭も良くて動ける湊。



俺には2人のように長けたものがない。




必死で身につけた体術も、こんだけの人数相手では無力だ。






……なんて、嘆いてるだけなんて絶対しない。







「もう一回言うけど、俺、帰りたいんだよね」


「……私たちはあなたたちに危害を加えたいんじゃないの。

協力して欲しいのはほんとよ。

大人しく付いてきてもらえないかしら」


「やだね。湊さんの足手まといになるのは嫌だし」


「その湊さんに大人しくしてもらいたいだけなのよ。

だから、協力してくれない?」


「だからー、嫌だって言ってんだけど」




チッとるみが舌打ちをした。


人間の本性を知るには、相手を怒らせることが1番手っ取り早い。

まんまと大地とるみはひっかかった。



怒りは注意さえも怠らせる。




バカな俺でもすぐにわかるくらいに。

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