第35話

秋信(幸架) Side





湊と往焚と別れて部屋に戻ってくると、パソコンをいじっている千春と深春だけが残っていた。




「あ、秋信さん。湊さんに言ってきた?」


「えぇ。お待たせしました」


「……別に」




寡黙な2人はなかなか馴染みにくそうだ。

だが、深春の方がまだ、口数が多い。



俺らはAIにジャックされないよう逃げながら情報を入手しなければならない。


バレないように、というのは無理だろう。


身動きができなくなら前に出来る限り集めなければ。




「役割分担、しようか」


「そうですね。…お二人はなにが得意なんですか?」


「兄は裏、私は表の情報収集、かな」


「なるほど…。じゃあ、お二人はそのままで、私はAIを追跡しましょう」


「………わかった」





全員が黙々とハッキングを始める。




俺もAIについての情報や動きについてを探りながら、思考を巡らせていく。






湊の様子がおかしかった。

晶が湊を試そうとしたのは誰が見ても明らかだ。



かなり雑な方法ではあったが…

それをわかっていて乗るなんて…


毒に慣れているといっても、多少怠くなったりはする。

わざと乗ってやることなんてない。



それに、最近の湊はずいぶん人間らしくなった。

以前は問答無用で人を殺していたように思うが、今は躊躇するようになった。



無名組織壊滅後から、さらに情深くなったように感じる。




そして、ゼロへの執着心…、ら



……彼女への噛み跡すごかったな。

キスマークも至る所に付けられていた。




そういえば一度だけだったが、湊があの女を抱いた後に彼の首の後ろに一つだけキスマークが付けられていた。




湊自身は気づいていないだろう。

ちょうど髪に隠れる位置だった。



指摘しようとしたら、ゼロがシィっと人差し指を唇に当ててにっこりした。


彼女も湊を想っているのだろうか。




いや、だったら道具のように振り回したりはしないだろう。


あぁ、何もわからない。




「……秋信」


「あ、はい」




千春が声をかけてきたので、作業を止めた。

深春はまだパソコンと向き合っている。





「中国のマフィアが3つ消されてる。

あと、イタリアとアメリカのギャングも4つ。

消したのはルナみたいだけど、動きが変」


「変?」




千春のパソコンを覗き見た。




ルナは日本だけでなく世界に勢力を伸ばしている組織だ。

その分組員の人数も 莫大だ。


人口の半数はルナなのではないかと思われるほどだ。



「……たしかに。むやみやたら暴れてる感じがしますね」



ルナと関係のない、接点もないマフィアが消されている。

それも、かなり無残に。




「…組員は全員臓器売買に回されてる。

それと、潰された組織の情報が全て消えてた。

………潰されるのがわかってデリートした…?」





カチカチとページを切り替えながら思考を巡らせていく。

消されたマフィアの情報は、千春が言った通り一つも出てこない。




ここまでなにも出てこないと、帰って不自然すぎる。




「これは、おそらく盗られたと考えるべきでしょう」


「……盗る?こんな小さなマフィアの情報を?」





確かに、消されたマフィアはかなり小さい団体のようだ。




「不自然なのは、

ルナと接点がない組織だということ。

潰された組織の情報が全く出てこないこと。

それなのに、"潰されたという事実"が回っていることです」


「あ……。意図的に、こっちに流してきてる…?」


「でしょうね」





AI…か?

まさか、ルナが"影"を取得した?



でも、一体どうやって……

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