第34話


今度は俺が晶に右手を差し出した。



疑わしそうに晶はその手を見つめる。



「……なんで僕の右手に仕込んであるってわかっていて右手を出すんですか?」


「わかってるから問題ない」



少しムッとした顔をされながら、差し出した俺の右手を晶が握った。




「………っ!いっ……」




掴んだ瞬間に離される。




「どこに、針なんて仕込んでたんですか?

というか何塗ってっ、」


「指に仕込んである。何も塗ってない。」




晶に背を向け、ひらひらと右手を振りながら部屋を出た。



幸架と璃久──秋信と往焚は自分のグループで話を進めている。






廊下を歩いていると、前から別の人物が歩いて来た。

会うのは初めてだが、こいつとは話したことがある。





別に今話すことはない。

そのまま通り過ぎようとした。





「待て」





……と言われて待つやつはいない。

そう、それが世界の決まりである。




ここは無視だ。






「あっ!ちょっと!…待てよ!」





待て、なんて格好つけて振り返った男を無視して進み続ける。

あいつは蜘蛛の最高司令官。


仕事で会うことはあったが、互いに邪魔な時は殺しあったりもする。



それに、俺はあのテンションが嫌いだ。


ものすごく、ウザい。





建物を出た裏。

壁に寄りかかってタバコに火をつけた。





──ゆらゆら、ゆらゆら






やっぱり1人の方が動きやすい。




晶には2時間後に偵察に行くと言ったが、嘘である。

さらに、指に仕込んだ針に何も塗っていないというのも嘘だ。



そろそろ眠ってる頃だろう。




元無名組織本拠地の跡地もうすでに下見は行ってきた。

特に監視もなく、罠もなかった。



それがかえって怪しく思う。






──ゆらゆら、ゆらゆら







ふぅ、と息を吐けば、煙が筋を作って上へ伸びて行く。



あいつは今、何をしているんだろうか。





核ミサイル、ねぇ。

AIが全てのネットワークをジャックしている今、そんなの撃ったらどこにいくかわかりゃしねぇな。



日本どころか、世界各国内首都に落ちるよう設定される可能性だってある。




何を考えているんだ。






それともダミーのつもりか?

AIが日本を守るような動きをすれば、メモリーは持ち去られずに日本にあることになる。


もし守らなければ大惨事だが…。



小さな島国など、世界にとってはなんの損失もない、か。






──ゆらゆら、ゆらゆら









「湊さん」



声の方向に視線を向ければ、秋信と往焚が立っていた。



「……なんだ」


「らしくないですね。晶の挑発にまんまと乗って」


「そーそー。湊さんなら、あーいうのいつも流してんじゃん?」


「……確かに、らしくねぇな」


「湊さん?なんかあったのか?」






──ゆらゆら、ゆらゆら









「………なぁ」


「はい」


「組織が記憶媒体に記録してた機密情報って、何なんだろうな」


「そりゃー、幹部とか事件の詳細とか次のターゲットとかじゃねーの?」


「それもあるだろうが…」






──ゆらゆら、ゆらゆら








「……あいつに比べれば、俺も凡人だな」








──ゆらゆら、ゆらゆ……




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