Powerless

第33話

湊 side



時間だけがどんどん過ぎていく。

なんの収穫もなく、AIは止まらない。




「湊さん。来てくださってありがとうございます。

お連れ様も、お忙しい中ご助力感謝いたします」




澤部がようやく協力者を集められるだけ集めたようだったので、今日は開理を除く3人で対策本部に赴いた。




日本で集められたのは、俺らを入れて9人。



「それでは、まず紹介から始めましょう。

私は澤部達明(さわべたつあき)と申します。

国際犯罪対策本部の指揮を務めております」



几帳面そうな男だ。

相変わらずのピッシリしたスーツに堅苦しい話し方をする。



「俺は村上大地(むらかみだいち)」


「僕は中原晶(なかはらあきら)だよ」


「わたしは神崎るみ」


「………俺は佐々木千春(ささきちはる)」


「わ、私っ、阿部蒼(あべあおい)ですっ!」


「……私、佐々木深春(ささきみはる)」




次々に自己紹介がなされる。

正直覚えるのが大変そうだ。



全員の髪の色で覚えよう。



大地は緑…すごいな。

晶は青………こっちもすごいな。

るみは金髪。


千春はダークブラウン。

深春もか。この2人は兄妹か。


蒼は黒だ。




整理したけどやっぱ覚えるのはきつそうだ。

……いや、覚えられるけど。

覚える気はないというか、…何か違和感。


どこかで会ったことがある?




「あ、俺は秋信。こっちは往焚で、こちらは湊さんです。

表社会に戸籍はないので、姓はありません。

名前でお呼びください」




幸架が俺らの紹介をした。

ここは偽名を使っておく。

俺はゼロにバラされているので、とりあえず湊となのることにした。

そもそも湊は俺の本名ではない。


とりあえず軽く頭を下げておく。



「それでは、今後について話していきたいと思います。

………と、言いたかったんですがね」




澤部が口ごもる。

心なしか顔色が悪く見えるのは、ここ最近の多忙のせいか。




「実は、世界から日本は敵視されてしまいましてね」


「は!?なんでだよ!」



大地は気性が荒いようだ。

不機嫌そうに澤部に詰め寄る。



「だ、大地さん!落ち着いて、落ち着いて」


「澤部さん、説明してくださります?」




晶が大地をなだめ、るみが高圧的に澤部に尋ねる。




うわ……居心地悪いな。






「AIの本体…つまり、発信源であるメモリーが日本にあるらしいのです」


「それがなんだよ?」


「……ただ、AIは自分の本体であるメモリーをかなりうまく隠しているんですよ。

場所を特定できないのです。

そこで、海外通信で電報が…。

1週間後に核ミサイル6本を放ち、で日本を消す、と」





ずいぶん強引だな。

世界の裏も表も混ざり合ってパニックに陥っているのは確かだが、それで日本という国を消すなんて…



全員考え込み始めた。

集められて来ただけあり、凡人の集まりではないようだ。




「……メモリーの場所は心当たりがある」




視線を澤部に向けて話しかけた。

全員の視線がこちらに向く。




「……行ってもいいが、おそらく罠だ。

今行ったら確実に失敗する。

………というか、もうすでにメモリーは持ち去られている可能性が高い」


「えっと、湊さん、でしたっけ?

僕もご一緒させてください。確認だけでもした方がいいと思うんです。

だって、メモリーがなくても何か手がかりがあるかもしれない」



晶がおずおずと話に混ざってくる。

こいつは…かなり体を鍛えているようだ。

細身に見えるが、バランスよく筋肉が付いている。




「じゃ、私と深春、秋信さんで情報関連はやる」


「え?」


千春が幸架にそう言った。

こっちの情報も少しは持ってるってことか。

幸架が情報担当だと初見でわかるはずがない。


1番小柄な璃久が情報担当だと思われてもよかった場面で、幸架を指定したのだから。



「秋信さん、情報収集担当なんでしょう?」


「えぇ、…そうですね」


「じゃあ、俺と往焚、るみは街に出てみるか。

蒼は澤部さんの手伝いすれば?」


「あっ、じゃあ…そっ、そうする!」



今度は大地がそう言った。

向こうの方ですでに役割分担は決まっていたらしい。


ずいぶん仲良いな。

というか、俺たちのことをどこまで知っているのか。


役割分担がかってに決まっていく様子を眺めていると、晶が俺に近づいてくる。




「あ、のっ。さっきも言ったけど、僕は晶。

君に比べたら全然役には立てないけど、よろしくね」




晶から右手を差し出される。握手をしたいらしい。

俺はそれを振り払った。



「2時間後。裏口集合。」



「あ……。あ、の…。了解しました」



晶は払われた手を、ほんの少し寂しそうにさすっている。

そんな顔されてもねぇ。



利き手と逆の右手を出してきた上に、袖口からガッツリ針が見えてる。

これは確実に何か盛ろうとしていたのがわかりやすい。


素人かよ。



「…よろしくするつもりがないヤツとよろしくするつもりはない」


「え……。やっぱり気づきました?」




さっきまでのオドオドした雰囲気は消え、何か企むように晶は笑った。


しかし残念ながら、長年ゼロの笑顔を見続けてきた俺には可愛いものである。

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